大切な日本語と日本食

(前ページ:NY日系人会の高齢者支援から続く)

JAA高齢者問題協議会

大切な日本語と日本食

野田美知代JAA事務局長

 ニューヨーク日系人会で長年ボランティアで高齢者介護をしているAさんはこう言う。「結局最後は、今日は何を食べたい?と言うのが人間の最後の欲求」なのだと。特に認知症などが進むとアメリカにきてから覚えた英語はどんどんと頭から消えていき、日本語だけが残っていく。食べ物も小さい時に食べた物や日本食が恋しくなるようで、現役時代に高級な日本食を作っていたシェフも年を取れば、家庭の味がする手作りのポテトサラダやコロッケや秋刀魚の塩焼きが食べたくなるそうだ。

 ニューヨークは、西海岸のロサンゼルスやサンフランシスコ、シアトルなどと異なり、日系移民の歴史が浅いこともあり、また中国、韓国、インドなど他のアジア系コミュニティーと比べても「NY日系コミュニティー」の裾野は狭く浅い。

 野田さんは「本来であれば、韓国系や中国系にはある日米年金相談室や、グリーンカードの更新手続きなどを専門に扱うコミュニティーの事務所があってもいいのだけど、常任スタッフをおいて対処するほどの需要がない」と言う。高齢者ホームも、日系社会で建物を確保して日本的なサービスを提供できるような受給体制、市場バランスが取れていない。採算が合わないのだ。NY日系人会では、市内のいつくかの高齢者ホームの視察会も実施している。中でもマンハッタンのイザベラ高齢者ホームは日系人が多いことで知られる。日本食はないが、キッチンがあるので食べたければ自炊することができる。

自分より年下が皆シニア

 JAAの高齢者支援プログラムは、さまざまな年間企画のうちの一つに過ぎない。全体のバジェットの中に占める高齢者プログラムはそれほど大きくないが、三井USAファンデーションなど日系企業の高齢者福祉基金や米国日本人医師会、チャリティー年次晩餐会などからの寄付で賄っている状態だ。ニューヨーク日系人会の高齢者福祉への取り組みは、元気なうちから、若いうちから考え、備え、仲間を作り、健康で楽しいニューヨークでの生活を維持することに主眼が置かれているようだ。「ニューヨークの日本人シニアの人たちは皆若くて元気。自分が高齢者であると言う意識が薄いが、気がついてみれば、自分より年下がみんなシニア世代ということにびっくりというのが実感です」と野田さんはいう。

老後の不安要因トップは医療費

 ニューヨーク日系人会の邦人・日系人高齢者問題協議会は「在ニューヨークの日本人・日系人の高齢化に関する意識調査〜訪問介護の在り方を探る〜」と第する報告書を2019年3月31日にまとめ、 桃山学院大学 金本伊津子研究室が発行している。監修は遠山(金本)伊津子・中島民恵子。

 それによると「老後の生活を迎えるにあたり、どのような不安がありますか」という設問に対しグラフのような答えが示された。

 高齢になって「病気・身体障害」(52・1%)を抱える可能性が高くなることから、「高額な医療費」(53%)が老後の生活の第1の不安要因として挙げられている。「配偶者のパートナーが要介護状態になること(32・3%)、「認知症」(31・5%)の罹患など、将来の医療費や介護費に対する大きな不安が読み取れる。生活を支える「収入・経済的状態」(39・8%)に対する不安も大きい。

 老後の生活の文化的な問題を挙げる者も少なくない。例えば「言葉(コミュニケーション)」(23・6%)、「食事」(20・2%)が、具体的な不安として挙げられている。「日本にいる両親(家族)の介護」(17・5%)をニューヨークに居住する家族が担うという状況が発生すれば、大きな負担となるのは必至である。