介護格差社会に備える
吉村隆裕
日本からプロが応援企画 from My BEST PRO
日本に帰国して介護保険制度を利用するにあたり知っておくべきこととして、すぐに介護保険サービスを利用できない(しにくい)ということがあります。介護保険サービスを利用するためには行政に要介護認定申請をして要支援・要介護の認定を受ける必要があります。通常は申請から認定が下りるまで約1か月かかります。申請は代行でも可能ですが、認定調査員による本人の状態確認のための調査と、かかりつけ医による意見書が認定審査のために必要になります。認定が下りるまでの間にも暫定的にサービスを利用することもできますが、回数の制限や内容を抑えておかないと予想外に認定が軽く出た場合などに費用負担が多くかかってしまうようなリスクがあります。また、何より日本の介護保険サービスを受けるためには介護支援専門員(ケアマネジャー)を見つけることが必要になります。自分自身がサービス計画を立てることも可能とはなっていますが現実的ではありません。自分の言わば最後までのマネジメントをしてくれる重要な人に出逢えるかどうかが、今の日本では良い最期を迎えるためには必要不可欠となっています。
次に、狭い日本とはいえ、どこに住むかによって受けることのできるサービスが大きく違ってきます。私は介護が必要になるようになればできるだけ都市部に住むことをお勧めします。理由は簡単で必要で良質な医療・介護サービスを受けるためには病院・施設・人材が集まる場所(まち)に身を置くのが最善です。当然居住費や物価などが高額になりやすいですから誰でもが可能とは思えませんが、これからますます人口減少していくのが確実な日本です。コロナ禍もあり医療・介護人材もますます不足していきます。郊外や農村部の過疎地では生活するための十分なサービスを受けられる保証がありません。家族や友人を頼ることができる環境であれば別かも知れませんが、すでに現在でも介護分野は専門化しており素人では適切な支援を提供できないことが多いです。これからは医療・介護サービスを必要とする人はできるだけ集まって生活し、少ない人材が効率よくサービスを提供できる環境を整える必要も出てくると思われます。
また、最も気になる費用面ですが、日本に身を置くと必ず毎月の介護保険料がかかります。自治体により金額の違いはありますが、全体的に金額は上がってきており毎月1万円前後かかります。それに加えて介護保険サービスを受けた場合には収入に応じて1割から3割の自己負担額が必要になります。デイサービスなどで提供される食事などは実費負担です。今後、最も心配されるのが団塊の世代が75歳以上となり介護サービスを必要とする人口が増え続けた場合には需要と供給のバランスが崩れ、認定を受けていても必要な支援が受けられなくなることです。その時に出てきそうなのが介護保険に依存しないサービス利用です。いわゆる全額実費で介護を「買う」時代が来るのではないかということです。介護の格差社会が到来する可能性が現実味を帯びてきているのです。
そのために必要な備えとしては資金の準備となりますが、いま日本で強調されているのが「介護予防」です。とにかく介護が必要な状態にならない、少しでも遅らせる。そのための住民サービス(サロンや体操教室のようなもの)も広がってきています。ただ、現在はコロナ禍のせいで思うように予防対策ができず、外出自粛などで運動・交流不足となり心身状況が悪化しているということが社会問題化してきています。海外で生活していても日本で生活していても、しっかりとした情報収集と資金対策、健康状態の維持は大切なのではないでしょうか。最後に日本では「人生会議(ACP:アドバンスド・ケア・プランニング)という取り組みが広がりつつあります。人生の最後をどのように迎えたいのか自分の気持ちをその時々で考え、整理しておこうというものです。皆さんも考えてみてください。
吉村隆裕(よしむら・たかひろ)大学を卒業後、福祉の専門学校に入り、社会福祉士となる。現在は、「訪問介護」「訪問看護」「居宅介護支援」の三本柱で、利用者の在宅生活をサポート。
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