ジャズピアニスト 大江千里
あけましておめでとうございます。
2020年1月20日、バードランドシアターで再び大江千里トリオライブをやりますので、新年は心が躍ります。旧年中は本当に皆様にはお世話になりました。こうしてまた新しい年を迎えてご挨拶ができることに心から感謝をしたいと思います。
2019年は、わが12年のアメリカ生活で最も大変だった年です。4月のある夜中にお腹が痛くてどうしようもなく自力で病院まで歩いて行き、そのまま入院、
虫垂炎の手術を行いました。腹膜炎で破裂寸前だったのです。Waiverにサインして犬に朝ごはんやりに帰ろうとしているのを現場のお医者さんたちがCTを受けた方がいいと進めてくれたのです。日本でそのあと7月にPETを受けたらなんと盲腸の手術で腸を止めたクリップが外れてお腹の中でぐるぐる動いているそうです。聞いてないよ、そんな話(涙)ですが、命は助かりました。
そのちょっと後に、僕を応援してくれていた父が亡くなりました。ずっと長いこと心の距離があったのですが父は20年ほど前に下咽頭がんを手術して声を失って、その後からお互いに会話が始まったのです。声を失って会話を得るって変な言い方ですが、一度もポップ時代にコンサートを見に来てくれなかった父が「1234」という僕のアルバムを持っていて、アメリカに渡るときも「日本ではやりきっただろう? 行ってきなさい」と背中を押してくれたのでした。
父が亡くなった直後はアルバム「Hmmm」のレコーデイングだったので、人生ってタフだなと痛感したのですが、このジェットコースターから降りたらだめだなとレコーディングを敢行し、自分の未来に光が見えるようなSenri Jazzを詰め込んだアルバム「Hmmm」 が完成しました。人生とはわからないものですね。このアルバムをNYにオフィスのあるSONY MASTER WORKSにダメもとで送るとなんと即契約が成立しました。ヨーヨーマーやブランフォードマルサリスのいるレーベルです。
秋以降もお腹の傷跡を抑えながらアルベニアジャズやローマの老舗ジャズクラブ、シカゴ、LA、シリコンバレーなどで演奏しました。ハードルが高くて不安も大きいのですが、気がつくとスタンデイングオベーションが起こり、拍手をいただけていると、きっと神様がどこかで「頑張れよ」って背中を押してくれているような感じがします。
新しい年もバードランドのトリオ公演を始め、そのあとはDCの名門ジャズクラブブルースアレーなどが待っています。今年は還暦を迎えます。47歳でNYのジャズ大学に入って52歳でジャズレーベルを立ち上げて6作アメリカで作っていることになります。
日本人としての誇りを持って一歩一歩今年も精進していきたいなと決意も新たにしています。
この新しい年の始まりが皆様にとって素晴らしいものになりますように。健康で実り豊かな2020年をどうかお過ごしください。