東京五輪で休戦決議

休戦決議採択後、国連で記者団の質問に答える森会長とバッハ会長(9日、写真・三浦良一)

ドーピング問題でロシア排除に衝撃

 2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長は9日、ニューヨークの国連本部で東京五輪期間中の休戦を加盟国に求める決議案に採択を前に演説し「スポーツの力で世界と未来を築いてく機会となる」期待を表明した。186か国が共同提案国となり採択された。採択後、国際オリンピック委員会のトーマス・バッハ会長と共に報道関係者の取材に応じた。
 この採択宣言は、オリンピック開催国が開催の前年に国連で加盟国に求めるのが通例で、今回は日本の五輪委員会の代表である森会長が演説して世界に平和五輪の開催を訴えた。
 また、同日、世界反ドーピング機関(WADA)が常任理事会を開き、ロシア選手団を2020年東京五輪・パラリンピックなど主要国際大会か4年間排除する処分を決めたことが、オリンピック関係者にショックを与えた。記者団との質疑応答でも、休戦決議採択と同じタイミングでWADAが処分を発表したことについてバッハ会長と森会長に質問が集中した。バッハ会長は「IOCはドーピングに対しては、一切の妥協を許さないゼロトレランスの立場を取っており、WADAがドーピングに対する主導的な立場を取っており、それをサポートする。東京大会では、従来と異なり、大会前にドーピング検査を行う。そのための予算を1000万ドル振り向けており、最高にクリーンな大会になる」と述べた。
 森会長も捕足し「公正で平等な大会を準備することが組織委員会の使命だ。処分に対しては異議申し立てがあると思うが、結論が出るまで静観したい。スポーツ大国の不参加は残念に思う気持ちも理解できるが、選手個々よりも、指導しているコーチや関係者にドーピングしてでも勝たせたい、記録を作りたいという気持ちがまだあるようなので、スポーツ界全体を啓蒙していかなくてはならないと思う」と述べた。

スポーツには世界と未来を変える力

森会長国連演説

 つい2週間前、ローマ教皇フランシスコ台下は、広島・長崎を訪問され、「核兵器のない世界は可能であり、必要不可欠であると確信す る」と述べられ、人々の心は深く共鳴しました。江戸時代約250年の弾圧に耐えてキリスト教信仰を守った長崎の空にも、1945年に原子爆弾は爆発し、平和の祈りは虚しいと感じていた我々日本 人の心に、教皇の言葉は一筋の光として、あるべき未来を照らしたの です。
 また、平和への脅威は戦争によるものだけではありません。グレタ・トゥーンベリさんの地球温暖化問題への叫びは、世界を震撼させ、 私も深く衝撃を受けた一人です。私が初めて国連総会で演説をした のは、2000年の国連ミレニアムサミットで、日本の総理大臣とし て、「人間の安全保障」を日本外交の柱に据え、国連の機能強化を訴 えた時でした。(中略)
  私は国連の場で演説するのは今回で5回目になりますが、常に「人間の安全保障」を胸に、世界の平和と繁栄を祈りつつ壇上に立つ気持ちに変わりはありません。特に今日は、10月に他界された緒方貞子 元国連難民高等弁務官が私の背中を押してくれているようです。緒方貞子さんは、東京2020組織委員会の特別顧問でもありました。 2001年に私が日本の現職総理として初めてアフリカを訪問した際には、全行程に同行し、ケニアのカクマ難民キャンプでは先頭に立って案内してくれた盟友です。その時、官房副長官として私に同行していたのが、現職の安倍晋三総理大臣であり、緒方貞子さんの遺志を継ぎ、世界の平和と繁栄に取り組み続けることは、私たち共通の誓い でもあります。(中略) 
 オリンピックの原点は平和です。約2800年もの昔に、古代ギリシャの偉大な先人たちは、オリンピックを通じ紛争をスポーツに置 き換えることを考え、それがオリンピック休戦の理念につながっています。現代に生きる我々の務めは、古代からの理念を受け継ぎ、広めていくことです。私は1964年の東京大会の時は27歳でした。当時、平和であるからこそ世界各国が集うオリンピック・パラリンピックが開催でき ると、平和の尊さをしみじみと感じたものです。1964年の東京オリンピック・パラリンピックは、戦争で焼け野原となった日本が終戦からわずか19年で立ち上がった象徴となり、その後の経済成長へ と繋がる日本国民の力となりました。2020年の二度目の東京オリンピック・パラリンピックは、平和の中で成熟した日本を見て頂く と共に、2011年の東日本大震災に際して世界中から頂いたご支 援に感謝しつつ、復興を遂げつつある東北の姿を世界に発信し、更には日本のみならず世界で発生している自然災害で苦しんでいる被災 者を励ます願いが込められています。励まし、励まされる連帯が、立ち上がる力になるはずです。
 東京2020大会の主たるテーマは「共生」です。平和は世界の人々の「共生」により成り立ちます。東京2020大会は、史上初め てオリンピックとパラリンピックを一体化した組織委員会を持つことを通じて「共生」を実践し、その素晴らしさを世界に示したいと思 っています。
 本年秋、ラグビー先進国以外で初めて開催された、日本でのラグビーワールドカップは、ビル・ボーモント・ワールドラグビー協会会長 が「過去最高のワールドカップだ」と評するほどの大成功を収めました。このラグビーワールドカップの成功経験を、東京2020大会にも生かしていくつもりです。スポーツの素晴らしさは、不可能が可能になる喜び、そして困難に挑戦することの尊さ、だと思います。私は弱い立場の人々が苦しむのを看過することはできません。だからこそ、ここで改めて世界の平和と繁栄を祈り、東京2020大会のビジョンである「スポーツには世界と未来を変える力がある」を信じたいと思います。
(9日午前、国連本部での演説から抜粋)