NY州で「クリーン・スレート法」発効
犯罪者の社会復帰優先
雇用、住居、教育機会で生活改善
ニューヨーク州のキャシー・ホウクル州知事は11月16日、特定の犯罪歴を封印し、個人が生活を改善できるよう雇用、住居、教育の機会を求めることを認める「クリーン・スレート法」(白紙に戻す法)に署名した。軽犯罪は判決から3年、特定の重罪の場合は釈放から8年後に犯罪歴を封印する。薬物事犯を含む220万人ほどの犯罪記録が封印される見込み。殺人などA級の重罪や性犯罪者などには適用されない。
同法は1年後に施行され、ニューヨーク州裁判所管理局に対し、対象となるすべての記録を特定し封印するために必要な手続きを実施するための最長3年間の猶予期間を設けている。封印されるが抹消されるわけではなく、法執行機関、裁判所、検察官、弁護人は、特定の条件下であれば封印された有罪判決を調べることができる。銃許可機関や子供や高齢者など弱い立場にある人々を扱う仕事を行なっている雇用主も犯罪歴閲覧は可能だ。
クリーン・スレート法はニュージャージーやコネチカット、オクラホマなど11の州が可決しておりNY州が12番目の州となった。ホウクル州知事は「犯罪を減らすのための最良の手段は高収入の仕事です。だからこそ、社会に対する負債を返済し、何年も再犯なしに過ごせば、(犯罪記録を)白紙に戻すことを私は支持しているのです」と語った。また「不足している45万件の雇用を埋め、企業の成長、拡大、繁栄に貢献する」とも述べた。
NY州議会は今年6月、「クリーン・スレート法」を可決し、知事の署名待ちとなっていた。反対する一部の共和党議員は既存の「封印法」で充分としていたが、法案支持派は費用も時間もかかり、犯罪歴を封印する資格のある者のうち実際に封印できるのは1%未満に過ぎないと主張していた。クリーン・スレート法は刑事司法改革として労働団体や権利擁護団体などが推進してきたが、マイクロソフトやJPモルガン・チェースのような大企業を含む産業界も人手不足解消で競争力強化につながると後押ししてきた。
「小売犯罪と戦う日」制定
全米小売業協会が立ち上がる
「万引きは転売目的」
ネットで誰でもすぐ売れる
組織的万引きはとくに都市部で深刻化しており、やはり貧困と犯罪の多さが背景にあると思われる。指令役はいるとしても警察も重罪の取り締まりに忙しく、万引きでいちいち出動するわけにもいかないという事情もある。また米国の場合、店員が万引き犯を捕まえようとすると、刺されたり銃撃されたりする可能性がある。また店員が万引き犯にケガなどさせた場合は逆に裁判で訴えられ店が賠償金を払う羽目になることもあるという。このため万引き犯にはなにもしない店が多いと言われる。陳列棚に鍵をかけたり、警備員を雇うなど対策をしている店もあるが、買い物客には利便性が下がり、店側では費用が増えてしまう。
全米小売協会(NRF)は今年4月、「こうした万引きは個人使用でなく転売目的であり、違法ビジネス」と断言。小売盗難の抑制は国家的な問題であり、同時に地域社会で解決すべき問題と発表した。また10月26日を「小売犯罪と戦う日」と宣言した。現在、連邦議会で連邦政府と州および地方の法執行機関との連携を強化する法案「2023年組織小売犯罪対策法」が議論されている。法案では国土安全保障省が主導する組織小売犯罪調整センターが設立されるという。また、米国刑法第18編も改正され、組織的窃盗に対する基準額と期間が追加される予定だ。
深刻な万引き被害が注目されるようになったのは2年ほど前のサンフランシスコからと言われている。2021年10月、ウォールストリート・ジャーナルが「サンフランシスコは万引きの天国になった」という記事を掲載、ドラッグストアチェーンのウォルグリーンが20店舗以上を閉店したと伝えた。アップルやノードストロームなどの高級店を狙った押し倒し犯罪者が繰り返しカメラに捉えられSNSにも投稿されるようになった。営業時間が短縮されり、閉鎖も相次いだ。
カリフォルニア州での万引き増加の原因としばしば指摘されたのが、2014年に住民投票で可決した提案47(Proposition47)だ。同法に基づき、950ドル(約14万円)以下の万引きを重罪から軽犯罪に引き下げたため増加するとしたものだ。同法の目的は、万引きは生活苦から来るものが多いため重罪で罰するより更生の機会を与えるほうが良いという考えだ。重罪になればまともな仕事に就くことが難しくなり、車も家もローンが組めなくなったりするためだ。厳罰でも再犯率や犯罪率の改善はほとんど見られないこと、そして緩和すれば受刑者が増え続ける刑務所費用を削減することができるという理由だった。
カルフォルニア州では提案47施行直後こそ増加したものの2020年にはコロナ禍もあり減少した。その後、車両盗難は増えたが窃盗は増えてはいない。また、重罪窃盗になる額については、テキサス州とウィスコンシン州では2500ドル(37万円)以上から、コネチカット州やペンシルベニア州が2000ドル(約27万円)からなどであり、カルフォルニア州はむしろ緩い方に入る。多くの州が1000ドル(約15万円)から1500ドル(約22万円)の間で、ニューヨーク州など22州が1000ドルとなっている。なお最低は200ドル(約3万円)からのニュージャージー州で、イリノイとニューメキシコが500ドル(7万4千円)からと続く。
深刻なのは、万引きのレベルではなく組織的な集団窃盗となっていることであり、またこれが全米的に起きているということだ。全米小売セキュリティ調査によると、2022年に全国の小売業者は小売盗難により1121億ドル(約16兆6000億円)の損失を被った。この数字は、2021年の損失939億ドル(約13兆9000億円)、20年の同908億ドル(13兆5000億円)から大幅に増加した。
盗まれるものは高級衣類、高級ハンドバック、香水の一方で、洗剤や髭剃り用カミソリなどが多い。高級品だけでなく生活日用品が多いのは、ディスカウントストアやドラッグストアは店員も少なく万引きしやすいことと、目的が転売だからとされている。ネットショッピングの普及でいまや簡単にネット上で売ることができる。イーベイやアマゾンは販売者の身元確認や仕入れ先確認に力を入れているが、窃盗団が直接売るわけでもないため限界がある。