前掛け専門店エニシング
■商いの象徴「前掛け」
商店街や市場が活気に溢れ、主婦が毎日専門店に買い物に行くのが当たり前だった昭和の時代。酒屋さんやお米屋さんなど重い商品を取り扱う専門店は、注文すると軽トラに乗って自宅に商品を配達してくれていた。その時に必ずといって目にしたのは、お店の人が締めている前掛け。「商い」の象徴でもある前掛けには、屋号や電話番号などお店の情報も書かれ、ユニフォームとしての役割だけでなく、「歩くお店の看板」としての役割も担っていた。
そんな前掛けが商人の間で定着した歴史は、江戸時代まで遡る。体の前に布を掛ける(垂らす)ことから「前掛け」と呼ばれるようになったこの作業着は、衣類の汚れを防ぐためというだけでなく、腰ひもを骨盤の上で強く縛ることによって腰にかかる負担を軽減し、重い荷物を運ぶ商人や職人をけがから守る役割も果たし、製造業の職人や商人の間で重宝されるようになった。明治時代になると屋号が染め抜かれるようになり今の形になった。そして、戦後、日本の経済成長と共に、広告的役割にも着目したメーカーが大量に配布したことにより前掛けの人気が沸騰し、全国に一気に広まって、「昭和の仕事着」のイメージが定着した。
■伝統の技法を引き継ぎ、世界へ
そんな前掛けだが、時代が移り、郊外に居住する人が増えて、人々が自動車でスーパーに行って食品をまとめ買いするようになると専門店が減ってしまい、それに呼応して前掛けを目にすることも少なくなってしまった。
しかし、「歴史もあり、機能性にも優れた前掛けの灯を消してはならない」と立ち上がったのが有限会社エニシングの代表取締役社長、西村和弘さん。かつて前掛け製造の中心地だった愛知県豊橋市で唯一残っていた高齢の職人さんたちの話を聞いて一念発起。日本で唯一の「前掛け専門店」を設立した。その後、後継者問題に悩んでいた工場に若い職人たちを送りこんで技術を学ばせ、事業を継承し、一昨年には豊橋市内に新工場も建設した。先達から受け継いだ、日本史の教科書にも出てくる100年以上前のトヨタ製やスズキ製のシャトル織機を使用して織られた丈夫な帆布に、伝統的な加工を施した本格的な製造法で作られたエニシングの前掛けは、洗っても長持ちし、使いこなすほどに味が出る魅力的な逸品だ。
様々な企業とコラボする形で若い人に前掛けの魅力を知ってもらおうとしたエニシング社の努力の甲斐もあり、「レトロの雰囲気がかえってカッコいい。」「昭和世代の人にプレゼントしたら懐かしがって喜ばれた。」などと受け入れられるようになり、また、ラーメン店や居酒屋など飲食店のユニフォームとしてもどんどん採用されるようになって、前掛けの人気は復活した。
エニシング社は海外にも目を向けた。2007年のNY出張を皮切りに、アメリカやヨーロッパで積極的に展示会などに出店。エプロンとは違うコンセプトのワークウェアとしての機能性と、日本伝統の工法で作られたデザイン性が認められ、今ではMoMAや大英博物館、その他のセレクトショップでも取り扱われており、世界にも「MAEKAKE」の魅力が伝わり始めている。
■「ショップNY生活」で販売
そんなエニシング社の前掛けを、ニューヨーク生活プレス社が8月に立ち上げた、日本独自の製法や伝統の工法で作られた高品質商品に特化して販売するショッピングサイト「ショップNY生活」でも発売中。現在、同サイトで扱っている商品は二通り。
高級で丈夫な1号生地で作られた「無地カフェ前掛け」は丈が短めに作られており、身長が低い女性が締めてもバッチリ決まる。本来、カフェなどの従業員のために開発されたタイプなので、ポケットも付いており大変実用的なのが特長。色は、前掛けらしい紺色と、個性的なからし色の2種類から選べる。また、素敵なケースに入っているので、ギフトとしても最適だ。
もうひとつは、数年前にNYのストリートフェアで出店し大人気だった「ロング前掛け」。こちらは2号生地で織られイラストもプリントではあるが、明治から昭和に使われていた前掛けのイメージを完全再現したタイプで、「招き猫」「酒」や北斎や写楽の浮世絵がプリントされた全5種類のデザインから選べる。こちらも可愛いオリジナルの紙袋に入っているのでお土産やアメリカ人の友人へのプレゼントにもお勧め。
BBQや園芸、アート制作などの時にも使えるオシャレで実用的な「前掛け」。日本文化に興味のあるアメリカ人の前で締めれば人気者になること間違いなしだ。
また、ニューヨーク生活プレス社では、既製品の前掛け販売だけでなく、飲食店向けやギフト向けのオリジナル前掛け制作オーダーも請け負っている。世界に一つだけの前掛けを作ってみては? 問い合わせは、info@nyseikatsu.com まで。
ショップNY生活: www.shopnyseikatsu.com