地下鉄で大気汚染

人体に有害なMP2・5濃度曝露率WHO基準の10倍

NY大研究グループが調査 乗車時間長い人危険に

 ニューヨーク市の地下鉄における空気の質に関する新たな研究が発表された。人体に有害とされる微粒子大気汚染物質PM2・5の濃度が非常に高く、通勤時間の長い低所得者、黒人、ヒスパニック系がもっとも危険にさらされていると警告している。

 研究論文は学術誌「プロスワン」に8月6日に掲載された。ニューヨーク大学タンドン校の土木都市工学部のマソウド・ガンデハリ教授率いる研究グループは、マンハッタン、ブルックリン、クイーンズ、ブロンクスの労働者310万人の自宅から職場までの通勤パターンをモデル化し、粒子状物質汚染PM2・5への曝露量を測定した。測定は2021年12月と22年6月に実施され、19の地下鉄路線と368の駅をサンプリングした。

 その結果、世界保健機関(WHO)が定めたPM2・5の平均濃度のガイドラインより、プラットホームで10倍、電車の車内で7倍高かった。駅の乗り換えや電車の待ち時間が長くなると曝露量は増加する。地下鉄での移動時間が長い人は、肺の奥深く、さらには血流にまで達する可能性のあるPM2・5への曝露が高かった。

 ガンデハリ教授は「粒子の濃度はかなり高く、想像をはるかに超えていた」と述べている。ガンデハリ教授率いる研究グループは昨年6月にこの研究結果を発表していたが、今回は論文にまとめた。PM2・5は化石燃料の燃焼による副産物として生成されることがよく知られている。しかし地下鉄でも、ブレーキによるレールや車輪の摩耗によって生じる鉄の粉塵が混入しPM2・5が生成されるという。研究では列車が駅に到着すると空気中の濃度が急上昇し、列車が出発して15〜20秒後に濃度が徐々に下がることが確認された。地下鉄全体が汚染されているが、PM2・5の曝露が最も高いのは低所得者と黒人、ヒスパニック系になる。地下鉄利用が多く、長時間乗っているためだ。アジア人より35%、白人より23%高いレベルのPM2・5曝露にさらされていた。 

 PM2・5は大気中に浮遊する粒子状物質のうち2・5μm以下の大きさの微粒子で、吸入すると肺に入り、場合によっては血流に入り、短期的および長期的な健康障害を引き起こす可能性がある。呼吸器疾患や心血管疾患、一部の成分は神経毒であることが確認されており、自閉症、統合失調症、ADHDにつながる可能性があるとの研究もある。

 ガンデハリ教授らの研究グループは昨年6月に同様の研究結果を発表していたが、今回はより詳細に分析して公表した。日本でも慶應大学の奥田知明准教授率いる研究グループが2018年、東京の地下鉄構内ではPM2・5が屋外の5倍もの高い濃度に及んでいるとの調査結果をまとめている。