暗殺未遂に世界が震撼

米市民の声

 7月13日、ドナルド・トランプ前米大統領がペンシルベニア州バトラーでの支援者集会の演説中に、銃撃され右耳を負傷。11月の大統領選を前に起きた事件に、米国の一般市民の人たちはどう思っているのか聞いた。

 マンハッタン在住のアンジェラさん(60代女性):この事件をきっかけにそれでも戦う姿勢を見せたトランプを強いと思う人が増えて、彼が大統領選に勝つと思う。

 マンハッタン在住のランスさん(40代男性)コンピューター・プログラマー:私は、トランプが暗殺未遂にあった討論会後の今、トランプが勝利へと傾いていったと思う。集会にいた消防士が家族を守って流れ弾に当たって死亡したことも影響する。アメリカ人の皆が消防士を愛しているからだ。

 トランプは楽勝だろう!そして、7月15日に発表されたトランプの副大統領候補に指名されたバンス上院議員の母親は3人の夫を持った麻薬中毒者という荒んだ家庭で育った。そんな苦労人を副大統領候補に選んだのにも共感を呼ぶ。

 マンハッタン在住のアンジェリーナさん(40代女性)建築家:何が起こるか予想するのは難しい。トランプには間違いなく多くの支持者がいて、それが彼が出馬する理由だ。その一方で、彼に反対する人も多い。今回の事件で彼の気持ちが変わることはないだろうし、むしろ出馬への熱意が高まり、選挙に勝つために躍起になるのではないだろうか。米国はうまくいっていない。分裂した国だ。それは強い民主主義の証ではない。

 ポキプシー在住のジョンさん(60代男性):私が思うに、トランプはこの暗殺未遂事件でより多くの無党派票を集めるだろう。彼は世論調査で1%強のリードを保っている。トランプはおそらく同情票を拾うだろうし、これを利用して民主党を非難し始めない限り、彼はうまくやっていけるだろう。有権者はこの2人の候補者に飽きていて、新しい顔ぶれに大統領選に立候補してほしいと思っているのだと思う。(石黒かおる)

事件翌日にはトランプタワー前に支持者が集まった(14日午後、五番街56丁目で、植山慎太郎撮影)

まさかの銃弾、選挙に潮目

銃撃前に見物者が発見
通報も間に合わず発砲

クルックス銃撃犯

 銃撃は、集会が開かれた屋外イベント会場の北約140メートル離れた敷地にあるARGインターナショナルという民間企業の製造工場の屋根から行われた。射程距離は120メートルほどとみられる。発砲に使用されたとみられるAR-15型の半自動小銃が容疑者の遺体の近くで発見されている。警察当局によると発砲はシークレットサービスが警備する区域外から行われたものとみられる。捜査はまだ進行中だが、警察関係者によると集会を見に来ていた人が屋根に人が登っていると発砲前に警官に伝えており、警官が対応しようとした最中、8発の銃弾を発射したと見られる。

 連邦捜査局(FBI)は、銃撃犯はペンシルベニア州ベセルパーク在住の白人男性、トーマス・マシュー・クルックス(20)と特定した。車から二つの爆発物が、自宅からも別の爆発物のようなものが発見された。暗殺未遂現場のバトラーから約70キロほど離れたペンシルベニア州ベテルパーク出身で、2022年に高校を卒業し、介護施設で働いていた。犯罪歴は確認されておらず、介護施設の採用時の身元調査でも問題はなかったという。

 動機や計画性は捜査中でまだ明らかになっていないが、単独犯と見られている。クルックスは18歳で共和党員として有権者登録していたが、17歳だった2021年に民主党系のリベラル系組織ACTBlueに15ドル寄付していた。事件を知った父親はほとんどなにも分からないと困惑しており、高校時代の知り合いらによれば「特別違った人ではなく普通だった」との声が多いものの、友人は少なく、いじめられていたとの証言もある。射撃部に入ろうとして断られたとの話もある。一方で全米数学科学イニシアチブから2022年に「スター賞」を受賞するなど理数系には強かったと見られる。

 銃撃で死亡したのは同州在住の消防士、コーリー・コンペラトーレさん(50)。熱心なトランプ支持者で、一緒に来ていた妻子をかばおうとして頭部に銃撃を受けたという。銃弾はステージの横方向から発射されており、ステージの左右にも観客席が組まれていた。流れ弾でほかに2人が重傷を負った。

負傷後ゴルフ場で一夜過ごす

 ペンシルベニア州バトラーで行われていたドナルド・トランプ前大統領の集会で7月13日午後6時15分頃、ステージで演説中のトランプ氏に向かって少なくとも8発の銃撃があり、トランプ氏は右耳を負傷、聴衆の1人が死亡、2人が重傷を負った。

 突然の銃声にトランプ氏はすぐに身をかがめ、会場は騒然となった。トランプ氏は大統領警護隊(シークレットサービス)に囲まれ1分ほど身をかがめていたが、狙撃犯が大統領警護隊によって射殺されたと連絡が入ると、大統領警護隊に囲まれながら、ステージを降りた。右耳のあたりは血まみれだった。ステージを離れる際に拳を振り上げ「ファイト」「ファイト」と叫ぶと聴衆からは「USA」「USA」と掛け声が沸き起こった。トランプ氏は事件発生から約2時間半後、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で、「大統領警護隊と法執行機関の迅速な対応に感謝したい」と述べるとともに、死亡した支持者の遺族に深い哀悼の意を表した。事件の様子は「右耳の上の方を銃弾が貫通した。ヒューという音と銃声が聞こえ、皮膚が突き破られる感覚があったので、何が起きたすぐ分かった」と振り返った。バイデン大統領は14日の記者会見で、事件があった13日夜にトランプ氏に連絡して話をしたが「短いが良い会話だった。元気に回復しており心からうれしく思う」と語った。また大統領警護隊(シークレットサービス)の強化を指示したことを明らかにするとともに、「この国の政治の温度を下げる必要がある」と国民に冷静さを求めた。トランプ氏は同日、国民の「団結」を呼びかける声明を出し、 CBSによると、同夜はゴルフ場で一夜を過ごした。15日にはウィスコンシン州ミルウォーキーでの共和党全国大会に出席し、共和党の全国党大会で大統領候補に正式に指名された。なお副大統領候補にはオハイオ州選出上院議員のJ・D・バンス氏(39)が正式指名された。事件を受けてニューヨーク市警はマンハッタンにあるトランプタワーの警備を強化した。