和モダンの融合表現 中里博恒×大石育子

対談:陶芸とテーブルコーディネート
NYで来春コラボ展示会

大石育子(おおいし・いくこ)インテリアコーディネーター、食空間プランナー、英国式紅茶インストラクター。食空間プロジェクト(FSPJ)認定サロン、初級ディプロマ発行校Atelier de Ikuko New York主宰。「東京ドームテーブルウエア・フェスティバル2019」特別審査部門入選。日本クラブ・カルチャー講座講師。マンハッタン在住。 https://atelierdeikukony.amebaownd.com/

日本で双子の陶芸家として人気の中里博彦さんと中里博恒さん。兄の博彦さんが染付けをして弟の博恒さんが器を作る。現在有田に工房を構え、陶房心和庵(こよりあん)で三川内焼の作品づくりに専念する。2人の作品は、日本各地の百貨店で展示され、さきごろ銀座SIXのFENDIのオープニングや服飾デザイナーの丸山敬太氏とのコラボでも話題となった。来春、中里兄弟とニューヨークでインテリアコーディネーターとして活動する大石育子さんが、日本クラブで「器とテーブルコーディネート」をテーマにしたコラボ展を開催する。2人に展示会に向けた抱負を語ってもらった。(聞き手、本紙・三浦良一、写真も)

来春の展示会は、大石さんがインテリアコーディネーターとして講座を持つ日本クラブで開催を予定している。大石さんと中里さんの共通の知人の引き合わせで実現する和食器の伝統と洋食テーブルコーディネイトとのクロスオーバーの世界が表現されるという。
博恒「今回こういうご縁をいただき、ニューヨークに導いていただいて期待に胸が膨らんでいます」
大石「実はいろいろ無理難題な注文を私がつけてるんですよ(笑)。テーブルセッティングの立場と器作りの立ち位置は、当然ちょっと異なっていて、伝統400年の中で作り出されてきた造形美と私がアメリカの生活の中で見ているものとのカルチャーの融合と衝突を実感しながら、こういうのが欲しいっていうものをどんどんとお願いしてるんです」
博恒「たとえば、ゴブレット。冷酒を飲むぐい飲みなんかはよく作るんですが、脚のついたものは難しくて今回初めて作りました。焼き物は、窯に入れて焼いてみないと分からないので大きいとステムが曲ったり倒れたりリスクがあるんです。リムの広い皿も手作りですから磁器で和の形を洋の器に落とし込むのに本当に技術を必要とします」
大石「テーブルセットでも、日本ではたぶんそういう使い方はしないでしょうというのを結構提案したりしてます。たとえば小皿をコースターとして使ったり、お皿をトレイのように使ったり、大きなお皿に小石を敷いたりなど、和洋折衷をクロスオーバーと言いますが、日本人のそれをはるかに超えていて、私にしかできないらしく、よく「黒船和モダン」と呼ばれています(笑)。先日、九州にもお訪ねしてお兄様にもお目にかかって、お二人の作品作りに込める情熱に触れたんです。九州は外来の文化が古くから入っている場所なので、純和風からモダンなテイストにも寄せていきやすいという印象を持ちました。日本のテーブルセッティングはどちらかというとフラット、平面的ですが、こちらは、アフタヌーンティーのお皿のように立体的。日本で見つけたお一人様用アフタヌーンティーのようなディスプレイも可愛いらしくてアメリカでは新鮮です」
博恒「来年春の展示会は、テーブルとのコラボレーションなので大石先生とご相談しながら作品の方をブラッシュアップしていきたいと思います。また、せっかく世界の文化の中心であるニューヨークでやるのですから、新しい釉薬を使ったオブジェやアート的なものや、絵柄が分かりやすい全体的に柄の入っているものやメタリックな黒を基調としたものなど新しいものにも挑戦してみたいです」

中里博恒(なかざと・ひろつね)1975年、長崎県佐世保市の三川内焼窯元「松雲窯」の双子の次男として誕生。高校卒業後、中里廣松、田沢大助氏に師事。三川内焼の伝統的な風合いも継承しながら、現代人の生活スタイルに合わせた器づくりを目指す。koyorian@me.com

大石「日本の展示会などよくリサーチしますが、今は黒い食器がとても多いですね。陶器で黒っぽいものはよく見かけますが磁器で黒というのはなかなかないです。中里さんの作品は、炭っぽい感じがとても素敵ですね。コーヒーカップや紅茶のカップなど。紅茶は色が大切なので内側は白くしてくださいとか、黒い器でも裏側は白くしてリバーシブルで使えませんかとか、ニューヨーク限定のものもぜひ作っていただきたいとか注文は盛り沢山(笑)」
博恒「今回、打ち合わせに来てとても刺激になりました。兄も私も日本の文化を学んできた訳ですが、アメリカの文化に触れ、日本人の感覚もお持ちの大石先生のお人柄にも触れられてとてもラッキーです」
大石「日本クラブは、米国人の陶芸マニアの人たちが足を運ぶ場所でもあり、今回は作品性の高いものも発信できるよいチャンスだと思います。展示会はもちろん『器ファースト』ですが、テーブルセッティングの方も、少し大きいテーブルなどを使ったディスプレイ性の高いコーデイネートにして私もアートに寄せてみようかと思い始めて、来春が今からとても楽しみです」
本紙「今日はどうもありがとございました」
(対談場所・NY・マンハッタン)