南部美人の杜氏 友情のアドバイス

ブルックリン・クラで

 ブルックリンのサンセットパーク、インダストリーシティーにあるクラフト酒の醸造所「ブルックリン・クラ」。米国人男性2人が酒醸造を始めたのは、2018年の1月だった。現在ではニューヨークの日本食レストランや酒バー、リカー・ショップでも彼らの酒を見かけるようになった。
 6月16日から19日までの4日間、岩手県二戸市の日本酒の造り酒屋「南部美人」から、杜氏の松森淳次さんと、製造部Ⅱ部・製品課部長の玉川聖士さんの2人が「ブルックリン・クラ」を訪れ、酒造りのアドバスを行った。2人とも南部杜氏の資格を持つ。岩手県から2人がニューヨークに来たのには、2つの造り酒屋を結ぶ友情があった。
 今年2月、ブックリン・クラの製造責任者であるブランドン・ダーガンさんが、日本に行き南部美人を尋ねて、1週間ほど酒造りの修業をする予定だった。しかし、日本で食中毒にあい、二戸市に着いたその日に低カリウム血症で1週間二戸市の病院に入院。はるばる岩手県まで行ったのに、修業できずに無念のまま米国へ帰国した。それならば、我々がニューヨークへ行こうと、今回、2人の杜氏がダーガンさんに酒造りのアドバイスをするためにニューヨークにやって来たという訳だ。
 松森さんは「作業の計画表を見せてもらい、麹の温度などをチェックした。彼らの計画の温度は最良の温度とは1、2度の温度の違いがあった」。その1、2度の違いが日本酒の味を左右するという。そして「お酒の味も細かな温度管理などに注意していけばもっと良くなる」とアドバイス。「1度、2度の違いですが、それでいい酒ができるのでその辺を分かってもらえたらうれしい」と松森さん。
 今回、ダーガンさんがアドバイスを受けながら、南部杜氏の2人と仕込んだのは、ダーガンさんが初めて造る純米大吟醸だ。これまで同クラでは純米吟醸は作っていたが、純米大吟醸は初の試み。松森さんは「ニューヨークに来て最初に一緒に仕込んだ麹は良かったので、これが酒になるのが楽しみ」と笑顔で話した。
 玉川さんは「蒸し米が良くなれば、もっといい酒ができると思う」と話した。 ダーガンさんは「日本で入院した時は南部美人の皆さんにとても世話になった。病院では通訳も付けてくれた。今回、杜氏から麹の発酵や的確な温度など学んだので今後の造りにいかしたい」と話していた。  (石黒かおる、写真も)