洋上の美術館

豪華客船「飛鳥Ⅱ」がNY来港

 郵船クルーズの主要株主であるアンカーシップパートナーズ社(篠田哲郎社長)は、同社が参加する伝統文化振興プロジェクト「Action!伝統文化」の一環として、ニューヨークに寄港した客船 飛鳥Ⅱの船内に日本文化に興味関心のある米国人を招き、日本文化を発信するイベントを6月3日に開催した。

(写真上:船内で展示されている美術工芸品。乗客が購入することもできる。(6月3日、写真・三浦良一))

 船内では、元文化庁長官である近藤誠一さんが、2人の人間国宝 室瀬和美氏(蒔絵)、大倉源次郎氏(能)と共に、日本文化として受け継がれてきた芸能と工芸の結節点に迫り、メトロポリタン美術館の日本学芸員であるモニカ・ビンチクさんが、独自の視点から示唆に富む解説を加えた。

自由の女神の前を通り、ニューヨーク港に入港する「飛鳥Ⅱ」
(写真提供・アンカーシップパートナーズ社)

 同社は、船舶投資ファンドの「アンカーシップパートナーズ社」のグループ会社が出資、今年2月に設立された。アンカー社は世界を周航する客船「飛鳥Ⅱ」を運航する「郵船クルーズ」の主要株主として船内で日本の工芸品の展示、販売普及事業を行っている。2022年3月、飛鳥Ⅱの船内が公益社団法人日本工芸会との連携により、先頃NY個展を開いた井上萬二氏ら重要無形文化財保持者(人間国宝)をはじめとする日本工芸会会員の作品約140点を船内に常設展示し、乗客たちは船旅をしながら、ゆっくりと日本を代表するアートを鑑賞し、気に入ったものがあれば、購入も可能という全く新しい企画がこの日本文化発信イベントになっている。洋上に浮かぶ美術館さながらの展示品は、販売されているものもあり、3日に開催された報道関係者ら招待客が船内のレストランや通路などに展示された美術工芸品の数々を見てまわった。

 スポンサーとして株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が支援しており、4日独自にマンハッタンの支店でイベントを開催した。同船は4月に日本を出て7月まで約100日間の船旅を乗客500人が楽しんでいる。

人間国宝が語る伝統文化

飛鳥Ⅱ会場に

 ニューヨークに寄港した客船 飛鳥Ⅱの船内に日本文化に興味関心のある米国人を招き、日本文化を発信するイベントが3日開催された(1面に記事)。郵船クルーズの主要株主であるアンカーシップパートナーズ社(篠田哲郎社長)が、参加する伝統文化振興プロジェクト「Action!伝統文化」の一環として実施したもので、船内では、元文化庁長官である近藤誠一さんが、2人の人間国宝 室瀬和美氏(蒔絵)、大倉源次郎氏(能)と共に、日本文化として受け継がれてきた芸能と工芸の結節点に迫り、メトロポリタン美術館の日本学芸員であるモニカ・ビンチクさんが、独自の視点から示唆に富む解説を加えた。冒頭、ニューヨーク日本総領事の森美樹夫大使が来場して同イベント開催に祝辞を述べた。

左から大倉伶士郎氏、人間国宝(蒔絵)室瀬和美氏、メトロポリタン美術館モニカ・ビンチク氏、元文化庁長官・近藤誠一氏、人間国宝(能)大倉源次郎氏、篠田哲郎社長

 室瀬氏は日本の漆の伝統と技術について解説し、技術を伝えるのはマニュアルではなく人間と人間が直に伝えるところ、自然をいかに学ぶかが肝心であり、100%人間がコントロールできるものではなく、自然の持続可能な維持は人類に対するSDGsの警告であると語った。大倉氏は、能で使われる鼓を実際に舞台で披露しながら、対面で稽古をつける様子を子息の伶士郎さんと会場と一体になって紹介した。近藤氏は「作家と使う人の心が通じあう、使うことで心が豊かになることが工芸の魅力であり、デザインはオリジナリティに溢れている。工芸品は手で作家が作り出すスピリチュアルなもので、大量生産を目的とした工業製品との違いは多く、歴然としている」と語った。

 会場からは「漆の木に傷をつけて木は死ぬが、自然破壊にはならないのか」という質問に対し「漆の木は自然には生えてこない。切った後にまた植えて育てることで自然界の持続性が保たれている」と解説。また、「工芸品は西洋では絵画や彫刻などよりもランクが下に見られることあるが、そういうことを日本の若い次世代の継承者は意識するのか」という質問に室瀬氏は「今はそういうことを考えていないのではないか。むしろ私たちの世代の方がそれを考えている気がする」と答え、大倉氏は「西洋の工芸、アートという区別が150年前に日本に入ってくる1000年も前から工芸は存在していて境目はなかった」と語った。

 また会場から「人間国宝としてどのように感じているか」との質問に大倉さんは「個人的には大変な重荷になっているが、日本の能楽600年の歴史を語る時、個人的な発言も重みを持って受け止められるようになったと感じている」と述べ、室瀬さんは「人間国宝になるために作品を作ってきたわけではないが、認定を受けたことで次世代に価値観を伝えていかなくてはならないという気持ちが大きくなった」と答えた。

マンハッタンのピア90に停泊した飛鳥Ⅱ

「飛鳥Ⅱ」MUFGは船内外で解説イベント

飛鳥Ⅱ船内でMUFGの取り組みを説明する飾森亜樹子経営企画部 ブランド戦略グループ部長(3日)

 株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は3日、4日の両日、ニューヨークに寄港中の客船「飛鳥Ⅱ」船内および、連結子会社である株式会社三菱UFJ銀行のニューヨーク支店で文化・芸術関係者やビジネスパーソンに向けたイベントを実施した。MUFGは、2023年8月から社会貢献活動「MUFG工芸プロジェクト」を推進。同プロジェクトは、「世界が進むチカラになる。」の実現に向け、日本の伝統的な工芸の文化や技術の継承に寄り添い、そこから変化の時代に必要なイノベーションを学び発信することを目的に展開している。

 4日には、ニューヨーク支店で、伝統と革新をテーマに17作品の展示とトークショーを開催した。秋元雄史東京芸術大学名誉教授ほか、南部鉄器職人の田山貴紘氏(タヤマスタジオ株式会社 代表取締役社長)、ジャパン・ソサエティーのミシェル・バンブリング・ギャラリー・シニアディレクターが意見交換した。