「渋滞税」中止に

NY州知事が土壇場で決断

 6月30日より導入が決まっていたマンハッタンでの「渋滞税」が5日、ニューヨーク州のホウクル知事の判断により急きょ中止となった。中止は無期限とされており、新たな開始日は設定していない。

 ホウクル知事は音声録音による声明を出し、渋滞税中止の理由について「市民はインフレと生活費の高騰に直面している。現時点で実施するとニューヨーク市民に予期せぬ結果をもたらすリスクが多過ぎるという難しい決断だった」としている。乗用車乗り入れに「15ドルの課税は労働者階級や中流階級にとっては家計を圧迫する可能性がある。さらなる負担をかけることはできないし、復興の障害となることをしてはならない」と述べている。一方で、交通機関の近代化や安全性向上など「ニューヨーク市民に約束されたすべての改善を進めることに全力を尽くす」と述べている。

 渋滞税はマンハッタンの60丁目より南に乗り入れる車両から通行料を徴収するもので、2019年にニューヨーク州議会で可決された。乗用車でピーク時15ドルなどとなっている。慢性的な渋滞を緩和し温室効果ガスも削減、また収益をバス・地下鉄などの公共機関の整備に充てることができる画期的なものとして歓迎された。英国のロンドン市などで導入されているが米国では初の試みとなる。

 ニューヨーク市のアダムス市長は「復興に影響を与えないようにしなければならない。知事が他の方法を検討しているのであれば、私は賛成する」と語った。渋滞税を阻止するために訴訟を起こしているニュージャージー州のマーフィー知事(民主党)は、今回の中止について「感謝している」とし、「3州全住民の利益のため引き続き緊密に協力していくことを楽しみにしている」との声明を出した。

マンハッタン渋滞税の急きょ中止

知事判断背景に政治的動機か

 渋滞税中止についてホウクル知事は声明のなかで「状況は変わっており、私たちは5年前の話ではなく、現場の事実に対応しなければならない」と述べているが、これまで一貫して渋滞税を支持してきた知事の突然の中止命令には驚きの声が上がっている。そのため政治的な動機によるものだという指摘もある。ポリティコ6月4日付によれば、11月の選挙で下院奪還を目指す民主党院内総務のハキーム・ジェフリーズ下院議員(NY州選出)陣営から今年11月の選挙に及ぼす影響を懸念する声が出たのだという。4月にシエナ大学が実施した世論調査によると、NY州の有権者の約63%がこの渋滞税導入に反対し、賛成したのはわずか25%だった。なお、マンハッタンにあるトランプタワーの自宅が渋滞税区域内にあるトランプ前大統領は4月、導入に反対し、大統領に復帰した最初の週にこれを「廃止する」と発言している。