トランプ氏有罪の背景と影響

大統領選前提の評決

 トランプ前米大統領が不倫の口止め料を不正に会計処理したとされる事件で、ニューヨーク州地裁の陪審は5月30日に有罪評決を下した。これを受けて量刑を決める審理が7月11日に行われる。トランプ氏は31日、記者会見し、「不正な裁判」であり「口止め料ではなく秘密保持契約だった。完全に合法で、誰でもやる一般的なものだ」と改めて無罪を主張、控訴する意向を示した。

 一方、バイデン大統領は31日、「法の上に立つ者はいないという米国の原則が再確認された。評決が気に入らないからといって、不正だと言うのは無謀であり、危険で無責任だ」と述べた。

 ニューヨーク州の場合、業務記録改ざんの量刑は最高で4年とされている。多くの法律関係者が、トランプ氏のような過去に犯罪歴がなく、業務記録改ざんの罪で起訴された人物が刑務所に送られることは極めて珍しく、罰金刑などがより一般的だとしている。しかしホアン・マーシャン裁判長が量刑を決めるにあたり、2016年の選挙との関係を踏まえた業務記録改ざんの重大性を考慮するのではと言われている。

 トランプ氏は刑事事件で有罪評決を受けた、米国史上初の大統領経験者となったが、米国の憲法の大統領選の立候補の条件に犯罪歴による制限はなく、有罪になっても出馬できることから11月の大統領選に向けて立候補は継続する。トランプ氏とバイデン氏が合意した6月27日開催の第1回大統領候補者討論会も予定通り行われるものと見られる。

 事実上の一騎打ちとなる11月の大統領選に向けて、トランプ氏とバイデン氏の支持率は拮抗している。リアルクリアポリテックスが算出している5月10日から31日までの9つの世論調査平均では、トランプ氏46・9%、バイデン46・3%でその差0・6%。ケネディ、スタイン、ウエスト候補を入れた場合でトランプ41・9%、バイデン39・7%とその差2・2%。評決前のABCの世論調査では、トランプ支持者のうち有罪であれば4%が支持をやめる、16%が考えると回答しており、裁判が与える影響は無視できない状況だ。

 トランプ氏に対するダメージは大きいと見られるものの、トランプ陣営によれば評決からの24時間でオンラインでの小口献金が5280万ドル(約83億円)に達したという。またその3分の1が新規参加者だという。有罪評決が支持者の結束を強めている格好だ。

  軽犯罪か重犯罪か

 

 トランプ氏は2016年大統領選挙期間中、当時の顧問弁護士マイケル・コーエン氏(2018年に税法違反や詐欺、選挙資金法違反などで有罪となり3年間服役。刑期は終了)を介してポルノ女優のストーミー・ダニエルズ氏に不倫の口止め料として13万ドルを支払った。口止め料だったことを隠すため、トランプ氏が業務記録の改ざんを承認したとされる。ニューヨーク州法では口止め料自体は違法ではなく、また業務記録の改ざんは「軽犯罪」に過ぎない。せいぜい罰金刑止まり。 法律専門家からはトランプ氏が抱える4つの裁判のなかでも、重罪とするには「無理筋」との声が少なからずある。「進歩派」を自認するボストン大学ロースクールのジェド・シュガーマン教授はニューヨーク・タイムズに4月23日に寄稿した一文で、「ニューヨーク州の判例には、一般市民を欺いたという解釈を認めた例はない」と指摘、「このような広範な『選挙干渉』理論は前例がない」などと疑問を呈している。

州最高裁が最終判断か

トランプ氏の有罪評決

 トランプ氏の弁護団は陪審裁判をスタテンアイランド区で行うことを希望したが却下され、予定通りマンハッタン区で行われることになり、選ばれた12人の陪審員が審理した。評決は全員一致でなくてはならず、一人でも反対すると陪審裁判やり直しだが、12人全員が有罪と認めた。

 有罪評決を受け、ボストン大学ロースクールのジェド・シュガーマン教授はニューヨーク・タイムズに4月23日に寄稿した一文で、は、「今回の裁判では選挙詐欺の側面は政治的効果のために誇張されていた」とした上で、「重罪での起訴に値する根本的な犯罪は、ついに明確にされなかった」と指摘。「検察の勝利は、突き詰めれば、リベラル寄りの司法管轄区で裁判を起こし、有利な陪審員を選んだことが理由だと考えられる」と述べた。

 トランプ氏側は控訴するのは確実で裁判は11月の大統領選後も続く見通し。州最高裁までいくものと見られる。トランプ氏の盟友で弁護士出身の共和党のマイク・ジョンソン連邦下院議長は、最終的に連邦最高裁が評決を覆すだろうとの見方を示している。