日本の介護事情を説明 NY日系人会で西村さん

 ニューヨーク日系人会(JAA)は3月25日夕、本紙で日本の介護事情を連載している西村栄一氏を講師に迎えたセミナー「日本の介護事情・制度の理解、介護施設契約書の読み方、そしてキーパーソンの探し方」を開催した。当日はズーム参加者も含め70人が聴講した。同氏は複雑化している日本の介護制度の現状、業界のデジタル化と遠隔介護の実情、認知症と診断された入居者への介護現場の実情などを分かりやすく解説した。講演要旨は次の通り(抜粋)。

(写真上:帰国後の介護事情を熱心に聞く参加者(NY日系人会で))

講演後、参加者の質問に答える西村氏

 米国で長く生活したあと日本に帰国して生活する場合、文化や言語の面で母国語環境は安心感がある一方、米国で構築した人間関係を手放すことにもなり、海外生活で日本との関係が希薄になっている場合は、新たなコミュニティ作りが課題となる。

 日本人の平均寿命は男性が79・6歳で、健康寿命は70・4歳。介護年数は男性が9・2年。女性の平均寿命は86・3歳、健康寿命は73・6歳で介護年数は12・7年と米国の男女平均8年よりも長い。老後の子供への期待は、義務ではないので自然な親子の絆から生まれる支援と考えるべきで、米国でも日本でも基本的に「自助努力」中心に考え、子供のサポートは「補完的」と考えるのが現実的だ。

 高齢者施設、住宅の種類は、民間施設では住宅型有料老人ホーム、介護付有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、グループホーム(認知症対応型共同生活介護)が主であり、公的施設では特別養護老人ホーム(特養)、介護老人保険施設(老健)がある。

 日本の介護保険制度は、高齢者の生活や自立支援のための社会保険制度であり、賦課(ふか)方式を採用している。賦課方式は積み立て方式とは異なり、払ったお金がその場で高齢者に使われる。住民票を復活させることで、すぐに介護保険制度の利用が可能。利用者は原則的にかかった費用の1割から3割を負担するだけで済む。

 米国で老後に介護が必要になった場合は、メディケイド(低所得者向け医療扶助)を利用するか、民間の長期介護保険に加入するか全額自己負担となる。米国で介護が必要になった場合、毎月ナーシングホーム代に70万円から80万円、都市部では100万円以上かかる。老後を日本で過ごすか、米国で過ごすかを決めるのは肉体的にも問題がない70代が判断時期となる。

 日本のどこで老後を過ごすかを決めたら、その地域の地域包括支援センターが重要になる。地域包括支援センターは、地域の高齢者を支援するための重要な機関であり、スムーズな介護サービスの提供に役立つ。知り合いを通じた紹介がスムーズな連絡を可能にする。ケアマネージャーの選定においても重要な役割を果たす。介護福祉士出身のケアマネージャーは45%を占める。看護師出身のケアマネージャーは知識が豊富だ。

 日本の介護施設契約時の注意点は、入居条件と退去・転居条件など重要事項をしっかり確認すること、費用、医療看護体制なども確認することが大事だ。

 西村氏は、(株)ヘルプズ&カンパニー代表、ISO9001審査員、大阪公立大学院都市経営修士。16年間で1200以上の取引先を持ち、全国の介護事業所や行政向けに運営指導を行っている。障害者支援グループホームも運営するほか、介護事業に関する著書も多数。NYでの講演は6年ぶり。

 参加者からは「対面で話が聞けて実感が湧いてきた」「あとは決断するだけだ」などの感想が聞かれた。