米国における日本美術・日本文化の普及に大きく貢献したコロンビア大学名誉教授の村瀬實惠子さんが2月13日、ニューヨーク市内のマウントサイナイ病院で亡くなった。100歳だった。大学の教え子で同大日本美術史教授のマシュー・マッケルウエイさん(58)によると、亡くなる1週間前に大学の教え子2人が自宅ベッドで村瀬さんを見つけた。その時はまだ意識があった。ベッドの横の机の上には、読みかけた本の上に眼鏡が置かれていたという。同日村瀬さんは病院に搬送され脳卒中と診断され1週間入院していたが、3月11日からジャパン・ソサエティーで予定されている村瀬さん企画による展覧会「寿」の開幕を目にすることなく亡くなった。
村瀬さんは、1946年東京女子大学英文学科を卒業し、1962年にコロンビア大学美術史考古学部博士号を取得し准教授就任した。専門分野の絵巻物・障壁画をはじめとした日本絵画研究に加え、新たに日本の彫刻、工芸、建築についても研究を進め、同氏により初めてコロンビア大学に日本美術史の常設講座が開設されることとなった。1975年に同大学教授に就任した同氏は、1996年にコロンビア大学を退官するまで、多くの後進を指導・養成し、米国での日本美術・日本文化の普及に大きく貢献した。
教え子の中には、サンフランシスコ東洋美術館の元館長であるエミリー・サノ氏や、個人収集では質・量ともに日本国外では最大の日本美術コレクションと言われる「バーク・コレクション」の所有者であったメアリー・グリッグス・バーク夫人がいる。
同氏が関わった展示会としては、1971年にアジア・ソサエティで行われた「日本屏風絵展」、1975年にメトロポリタン美術館で行われた「日本の美術ーメアリー・アンド・ジャクソン・バーク夫妻コレクション展」などがある。コロンビア大学退官後、メトロポリタン美術館東洋部特別顧問に就任。同美術館の特別展の企画・図録の作成から、収蔵家や他の美術館との交渉など困難が伴う過程をやり遂げ、展覧会を成功に導いた。同氏が関わった展示会としては「夢の架け橋ーメアリー・バーク日本美術展」(2000年)、「日本書道展」(2002年)、「織部ー転換期の日本美術」(平成2003年)がある。平成22年(2010)秋の叙勲で瑞宝中綬章が授与されている。
(写真)コロンビア大学名誉教授時代の村瀬さん