東日本大震災で父娘の絆描く
NYの堀江さんが監督
ニューヨーク在住で宮城県出身の映像ディレクター、堀江貴氏(51)が監督した映画「最後の乗客」(本紙2月18日号既報)が海外の映画祭で続々と受賞やファイナリストにノミネートされ始め、話題となっている。同映画の完成記念資金集めのイベント(主催・キャッチ・アス・パフォーミング・アーツ 、後援・NY宮城県人会、おむすび権米衛)が18日、マンハッタンのスカンジナビアハウスで開催され、150人余りの人が詰めかけた。(写真上の右:NYの資金集めイベントで来場者と話す堀江監督(右))
東日本大震災から10年目の2021年3月の公開を目指して制作を進めてきた同作品は、ドキュメンタリーではなく、親子の関係が震災で変わってしまったドラマ。
同作品は、サンディエゴ芸術映画祭で「最優秀インデペンデント映画賞」をこのほど受賞、またカンヌ世界映画祭の最優秀インディペンデント映画(低予算部門)ファイナリスト、スウェーデンの映画祭ボーデン・インターナショナル映画祭(BIFF)の初長編映画ノミネート、モントリオール・インデペンデント映画祭の最優秀フィクション映画など数々の映画祭で受賞やノミネートの発表が続いている。
上映後、NY宮城県人会の大清水良裕会長は「パンデミックでロケができない、日本に行けないという難産の末についにここまで作品を作り上げた堀江さんに敬意を表したい」と舞台から挨拶。レセプション会場では「胸が熱くなって今でも涙が出てくる。みんなの想いが詰まった作品で皆さんに見て欲しい映画」(FCIニュースキャスターの久下香織子さん)、「最後の展開が感動的で胸が詰まる思いだ。こういう映画を作らないと震災を受けて心の傷を受けた人の気持ちは描けない。勇気がいることだ。素晴らしい映画をこの世に残してくれた」(殺陣波涛流代表の香純恭さん)、「自主制作映画というレベルを超えた映画に共感し拍手と涙が止まらない」(ジャーナリストの黒部エリさん)、「意外性があって新鮮だった。Toyaさんの音楽が良かった」(9・11風の環メモリアルコンサート音楽監督のマイク白田さん)、「何度も泣いた。震災を見る視点が違い、今までの自分が恥ずかしく思えた」(北海道ゆかりの会代表幹事の竹田勝男さん)などの感想が聞かれた。花束を受け大勢の観客に囲まれた堀江さんは「大勢の人に観てもらえるこの日を待っていたので、自分の方が感動してしまった」と話していた。まもなく12年目の3・11がやってくる。完成は2年遅れたが、今年は作品が世界各地で見られそうだ。
大どんでん返し、観客の意表突く
東日本大震災から10年目の2021年3月の公開を目指して制作を進めてきた映画「最後の乗客」は、ドキュメンタリーではなく、親子の関係が震災で変わってしまったドラマ。ストーリーは東日本大震災から10年。とある東北の小さな駅のロータリー。タクシードライバーの遠藤は受験で東京へ行ったきり音信不通の娘みずきの帰りを待っている。遠藤は娘と喧嘩別れしたきり一度も会っていないのだ。そんなある日、幽霊がでると噂の沿岸道路で一人の謎の女性客を乗せる。女は「浜町まで」と告げる。そして、その途中、同じく「浜町」へ行きたいという親子も同乗し、4人は浜町を目指す。ストーリーは、観客が最後の数分で意表を突く大どんでん返しを受けることになる。
堀江氏は当初、ショート作品の15分を制作する予定だったが、撮影した映像を編集する段階でどうしても15分では収まらないことが分かり55分の作品として仕上がった。
出演は、娘役に岩田華怜。宮城県出身の俳優。元AKB48、みやぎ絆大使が台本を読んで快く出演を快諾してくれた。父親役は神奈川県出身の俳優、冨家規政。83年NHK連続テレビ小説「おしん」でデビュー。以来、テレビドラマを中心に映画、舞台、CMなどで活躍するベテランだ。
撮影は宮城県出身の佐々木靖之。昨年「ドライブ・マイ・カー」でアカデミー賞を受賞した濱口竜介監督の震災の記録映像をアーカイブするドキュメンタリー作品「東北記録映画三部作」、「寝ても覚めても」を撮影した実力派だ。音楽は、スタンドバイミーのライブコンサートをBE KINGと長く続け、被災地にも訪れているToyaが作曲した。
堀江氏が子供の頃に母親が作ってくれた、卵焼きが具になっているおにぎりが作品の中でも登場し、出演者の演技の中でもきめ細かく表現されている。18日夕、ニューヨークのスカンジナビアハウスで作品お披露目イベントが開催され、150人近くの来場者があった。当日は、観客数分の卵おにぎりがレセプション会場に用意され、来場者に振る舞われた。NYの宮城県人会や東北、北海道出身者でつくる「ほくほく会」のメンバーや一般市民らが当日のイベントに参加した。当日の寄付の一部は参加者の了解を得てトルコ大地震の被災者に送られる。