「不法移民狩り」始まる

移民社会の米国に大きな影落とす

 トランプ政権が最初に打ち出した不法移民の国外強制送還が、米国移民社会に大きな不安を与えている。1月28日、米移民取り締まり当局は、ブロンクスで誘拐、暴行、窃盗容疑の不法移民者を逮捕した。国土安全保障省のクリスティー・ノーム新長官が発表した。摘発したのは、同省傘下の米移民税関捜査局(ICE)とニューヨーク市警察(NYPD)。前週からニュージャージー州ニューアーク、イリノイ州シカゴでも大量の摘発が始まっている。さながら冷戦期のアメリカの1950年代初め、朝鮮戦争の時期のアメリカで、共和党の上院議員マッカーシーによって行われた、反共産主義にもとづく政治活動、およびそれによって多数の政治家、役人、学者、言論人、芸術家、映画人などが親共産主義者として告発されたマッカーシズム「赤狩り」の再来を思い起こさせる「不法移民狩り」が始まった。

 米国内の1400万人に上る不法移民の約6割が不法滞在で摘発の対象となる。移民社会の米国に大きな不安が高まっている。ニューヨーク日本総領事館には、在留邦人からの不安を訴える連絡などは28日現在ないという。

 強制送還や取り締まりは、ブルーステートと呼ばれる民主党勢力の強い州で聖域州と呼ばれている。その中でも聖域都市が集中的にターゲットになっているとみられる。聖域都市は、不法移民を強制送還する連邦政府の移民・税関捜査局(ICE)の法執行への協力を制限する政策を取る州や都市を指す。非営利組織「米国移民改革連盟」の調査によると、全米50州のうちニューヨーク州やイリノイ州、カリフォルニア州など11州が「聖域州」を宣言。市や町レベルでは約600都市にのぼる。全米最大の聖域都市とされるニューヨーク市のアダムス市長(民主党)は21日の記者会見で、移民政策の激変について問われ「この街は移民の街で、この国は移民の国だ。移民の人々の不安をやわらげたい」と述べた。今回NY市内で摘発があったことがニューヨーカーに衝撃を与えた。今後、連邦政府と地方自治体が衝突の可能性もあるとの見方も出ている。