ー大統領就任ー
大揺れのDCで見た有権者の対立と素顔
私は1月5日から、取材のためにワシントン入りしている。1月6日、2020年米大統領選の「不正」を信じるトランプ支持者たちが全米からワシントンに集まり、大規模な抗議集会が行なわれた。
集会場所となったワシントン記念塔近くから、ペンシルベニア・アベニューを連邦議会議事堂まで行進。支持者の一部が議事堂の外側を占拠し、米国歌や「アメイジング・グレイス」を歌うなど、そこまでは比較的、平和的な雰囲気だった。
しかし、その中のごく一部が議事堂内部に乱入。複数の死者を出す惨事が起きた。
トランプ支持者のほとんどは、議事堂乱入を非難している。そしてその多くは、「トランプ大統領はもっと早く選挙結果を受け入れるべきだった」と思っている。
事件の翌日、トランプ支持者らは次々と自分たちの町へ帰っていったが、ワシントンの街中で祈りを捧げる姿もあった。
大通りをトランプ支持や星条旗の大旗を翻した車の列が現れ、「Thank you, President Trump(ありがとう、トランプ大統領」「God bless America(アメリカに神のご加護がありますように)」などと放送し、クラクションを鳴らしながら走り去っていった。
通りがかった若者が、車の列に向かって罵声を浴びせる。
ワシントンは民主党支持者が圧倒的に多い。今回の大統領選でトランプ氏に投票したのは、わずか5%だ。
議事堂前の広場では、20、30代の男女が地面に座り込み、大きな色紙にマジックで、「D.C.=OUR HOME」「SAY NO TO AMERICAN FASCISM」などと書いていた。
そのうちの1人マルギトさんは、「何かせずにいられなかった」と言う。
議事堂前では、「REMOVE TRUMP(トランプを追い出せ)」「WHITE SUPREMACY IS TERRORISM(白人至上主義はテロリズムだ) 」などと書かれたサインを手に、最後まで抗議する人たちの姿も見られた。
事件の翌日から、議事堂やホワイトハウス周辺を中心に高さ2メートルほどのフェンスやブロックが設置され、警官や州兵が日に日に増え、立ち入りできない範囲が刻々と広がっている。
住宅地の近くでも、道路を軍用車が閉鎖している。緊張感を与えないようにとの配慮からか、傍に立つ警官や州兵が市民と気さくに言葉を交わしている。
市民らは「トランプとトランプ支持者らのせいで、戦場のようだ。こんな街を見たことがない」と怒りを露わにする。
セキュリティ・チェック・ポイントを通過し、厳戒態勢の敷かれた議会議事堂の写真を撮りに来る市民もちらほら見かける。が、私が出会った市民のほとんどは、「大統領就任式当日は、外に出ない」と話す。
黒人差別に抗議する人たちの「聖地」とも言えるホワイトハウス前の「ブラック・ライブズ・マター(BLM)・プラザ」では、トランプ支持者らがワシントンを去った後、その周辺の警備が弱まったこともあり、音楽に合わせて踊り、BLM支持の旗を悠々とはためかせるなど、活気が戻り始めた。
地面の「BLACK LIVES MATTER」の大きな文字が、黄色のペンキで塗り直された。
ホワイトハウスとプラザの間には、6月頃からBLM運動が激しくなったため、警備強化の目的でフェンスが設置された。そのフェンスには、警官に殺された黒人たちの写真やBLMのメッセージがびっしり貼られている。
この広場を占拠する人たちは、「バイデン氏が大統領になれば、フェンスは撤去されるはず。それまで、このフェンスを守る」と私に語った。
高級ホテルには「WELCOME MR. PRESIDENT!」「WELCOME MADAM VICE PRESIDENT」などの垂れ幕がかかっている。
「平和な政権交代を」。
市民はそう願っている。
(岡田光世、作家・エッセイスト、写真も)