女子プロボクサー
2階級制覇元世界チャンピオン
吉田 実代さん
日本の女性プロボクサーで「闘うシングルマザー」の異名を持ち、今年5月までWBO女子世界スーパーフライ級王者として世界チャンピオンの座に君臨した吉田実代選手(34)がこのほど来米し、2日、米国ニューヨークの名門ボクシングジム「グリーソンズ・ジム」(ブルックリン)を拠点に活動することが決まった。同ジムは、モハメド・アリ、マイク・タイソンら多数の名世界王者を生み出し、米国における名門ジムとして知られる。
吉田さんは、第5代・第7代WBO女子世界スーパーフライ級王者。第6代OPBF東洋太平洋女子バンタム級王者。初代日本女子バンタム級王者と2階級制覇した実力の持ち主。1988年、鹿児島県で生まれた。小学2年〜中学1年はソフトボール選手として活躍。中学卒業とともに母親のもとを離れ、仕事をしながら通信制の高校を卒業。20歳の誕生日を迎えた4月に、格闘技未経験でハワイに単身格闘技留学、キックボクシングを習ったのがこの世界に入るきっかけだった。プロボクサーデビュー後に結婚し、2015年4月に長女を出産するも離婚。シングルマザーと格闘技インストラクターとして活動してきた。
「5月の試合で勝っても負けても海外で勝負したい」と思っていた。タイトルを失ったことで逆に吹っ切れた。8月にロサンゼルスやラスベガス、メイウエザーのジムなどを訪ねて渡米のチャンスを探ったが、ビザのない外国人が米国のプロモーターと専属契約を結ぶのは至難のワザだと分かった。脳裏に浮かんだのが5年前、座間の米軍基地で行った試合の時に、運営を担当していたある日本人が言った言葉だった。吉田さんの実力とスター性を見出し、ニューヨークへ行くなら自分が元いた有名ジムを紹介してあげるというものだった。最後に交信したメールは3年くらい前。メールをひっくり返して連絡がつき、事情を話すと、その有名ジムというのがグリーソンジムだった。早速9月にニューヨークのジムを訪ねた。錚々たる人物が出入りしていた。その中に、WBCのスレーマン会長がいて、自己紹介したら自分のことを知っていた。「アメリカで闘いたい」との思いを伝えたところ「では、ビザのスポンサーになってくれそうな人に手紙を出してあげよう」と言ってくれた。秘書のジル・ダイヤモンドがグリーソンジムのオーナー、ブルース・シルバーグレードの推薦状を取り付けてくれ、米ボクシング界の重鎮プロモーター、ル・ディベラ氏を紹介してくれた。最初は日本から通って米国で闘いたいと伝えたがディベラ氏は「そんな生半可な気持ちじゃダメだ。娘を連れてアメリカに移り住む覚悟があるんなら面倒見る」という答えだった。
時間はかからなかった。日本国内の所属事務所を退会、東京の家も引き払い、7歳の娘の学校も退学手続きして「子連れ移住でやってきました」と伝えたら、今月2日、すぐにディべラ氏が契約してくれた。来年2月にはマンハッタンで米国デビュー戦が早くも組まれている。「娘に支えられて頑張れます。本当に母は強しですね」。米国で「闘うシングルマザー」の再出発だ。 (三浦良一記者、写真も)
(写真)Instagram miyo_yoshida