新作は母、石川須妹子への想い

現代舞踊家

田中いづみさん

 日本を代表する現代舞踊の振付作家が作品を披露する第51回「現代舞踊展」(主催:東京新聞、後援:一般社団法人現代舞踊協会)が今月3日と4日、東京都目黒区のめぐろパーシモンホールで開催され、ニューヨークで20年間舞踊家として活動した田中いづみさんが新作「メメント・モリ 慈しみの人へ」を公演した。

 これまで地球温暖化や戦争など、主に社会問題をテーマにした作品に取り組んできた田中さんだが、今回は恩師でもある母、故石川須妹子さんが1年前に死去し、シンプルに今生きていることの大切さ、喜びを表現する作品を作りたいと思ったという。田中さんの同新作には、プロを目指す大学生から石川さんに長年師事したベテランまで、年齢幅の広い男女16人が参加した。ゆったりとした曲調のソロのピアノ演奏で始まり、木漏れ日のような優しい照明のなか、各々の白い薄い生地の衣装を着たダンサーたちが、今を実感しながら日常を送る人々を表現する。曲調が明るく軽快になると確実に前に進んでいき、最後は1970年代の名曲「ウィル・ユー・ダンス」に合わせて、生きていることの感謝を伝える様子を伝えた。田中さんは文化庁派遣在外研究員として渡米し、1987年からニューヨークの現代舞踊界で活躍し、ニューヨーク大学舞踊教育学科で講師も務めた。2007年に帰国し、現在はダンスアカデミー(現:石川須妹子・田中いづみダンスアカデミー、練馬区小竹町)で育成、指導する傍ら、現代舞踊協会の理事、アーティストとして日本の現代舞踊界の発展に努めている。

 これからの目標は、以前から抱いていた強い思い「モダンダンスほど身体にいいものはない」ということを広く伝えていくこと。現代舞踊は、抽象的でわかりづらいという印象があり、日本ではあまりメディアに取り上げられることがない。日本の現代舞踊界の巨匠として知られた田中さんの母、石川さんは、婦女子が人前で踊ることはふしだらと言われていた軍事政権下、さらに父も軍人だったため、家出覚悟で舞踊界の門を叩いた。長女の田中さんは、そんな母の影響で自然に3歳から踊りを始め、自由に現代舞踊の道を進んできたため、東京とニューヨークの生活にあえて環境の違いを感じたことはないという。以前、筆者が石川さんの米寿記念公演を取材したとき、若さの秘訣はと問うと「踊りに対する情熱が絶えず、常に未知のものに触れたいという好奇心を持っていること」と答え「死ぬまで踊り、舞台に立ち続けたい」と話していた。(浜崎都、写真・スタッフ・テス(株) 中岡良敬)