ミュージカルの本場で生き抜く情熱

ブロードウエー俳優

由水 南さん

 実家は代々加賀友禅の伝統工芸家で、二代・由水十久の娘として石川県金沢市で生まれた。アートに対する両親の理解もあり、小学生の時にバレエスクールで東京の帝国劇場で「回転木馬」を見た時に、踊りだけでなく歌って演技もあるミュージカルというものを初めて知った。テレビの衛星中継で「ライオンキング」のトニー賞の発表を見て「こんな素敵な世界があるんだ」と魅了された。地元高校時代はバレエ、演劇、合唱、そして英会話を掛け持ちでやって高校卒業後に渡米し、ニュージャージー州立大学を経て、ニューヨークの演劇学校、アメリカン・ミュージカル&ドラマティック・アカデミー(AMDA)を卒業後、全米各地の劇場で「メリー・ポピンズ」「アイーダ」「キャッツ」など、多数の舞台に出演した。

 日本では、劇団四季で「ウィキッド」「美女と野獣」「鹿鳴館」に出演し、日本初演の「春のめざめ」では、翻訳家・演出助手としても携わる。再渡米後の2015年、渡辺謙主演の「王様と私」でブロードウエーデビューを果たし、その後も「ミス・サイゴン」「マイ・フェア・レディ」でブロードウエー出演を続ける。「マイ・フェア・レディ」では、アジア人の女性俳優として唯一の出演者に選ばれ、俳優陣のリーダー役であるダンスキャプテンも務めた。 舞台俳優として活動してから20年、週に8回のステージをこなし、一人22役、男役も女役もできる万能俳優として活躍してきた由水さんだが、出だしは決して順風満帆ではなかった。オーディションを受けること88回目にしてやっと初仕事を手にし、ブロードウエーの舞台に立つのにさらに10年の歳月を要した。小さな落胆と希望の連続の中で常に心がけたことはオーディションの記録を日記としてつけたこと。場慣れして体験を積むことがまずはオーディションを受ける目的だったので、全てが勉強と経験だった。現在は、俳優活動と並行して、2014年に『YU-project』を発足し、セミナーや講演会を通して「可能性は無限大」のメッセージをニューヨークから世界に発信している。昨年、初の著書『今日から始めるSHOW UPの習慣』(イマジカインフォス)を出版し活動の幅を広げている。

 今年4月に故郷石川県に戻り北陸で開催されたガルガンチュア音楽祭の司会を務め、被災地で「上を向いて歩こう」などを歌った。10月には再び一時帰国して「いしかわ舞台芸術祭」に参加する。「能登は長期的な支援が必要で、私なりにでもできる支援をしていきたい」という気持ちで遠い母国を思う。 (三浦良一記者、写真も)

Website: https://www.yu-project.org/