特殊効果 製作者
土持 智加さん
コンタクトレンズの箱に水しぶきを飛ばしたり、シューズに色つきの煙をもくもくと掛けたり、水の入った水槽にインクを流すことで雲のように見せたり…。土持智加(つちもち・ともか)さんは、何気なく見ているコマーシャル映像やポスターなど広告の裏側の仕事である特殊効果や小道具作りに携わる。
岡山県で生まれ育ち、高校時代に1年間の交換留学でオハイオ州に来たのが渡米の第1歩。姉の大学留学に続いて自分も外国に行きたいと思い、アイオワ大学へ進学してプレエンジニアリングと心理学を学んだ。機械工学を専攻したいと2010年、ニューヨーク工科大学へ転校。卒業してエンジニアとして最初に就いたのが発電所デザインの仕事で、「ぜんぜん楽しくない」と思い数か月で辞めた。続いて、商品の模型などプロトタイピングを請け負うスタジオでインターンとして雇われるが、そのスタジオが引越すことになり無職に。そして、近所にあって仕事上でも面識のあった特殊効果製作会社スウェル(青木まこと社長)の戸を叩いた。当初はパートタイムで働き、専門学校にも通ってグラフィックデザインを学んだ時期もあった。
地味な仕事で、重い水を運ぶなど肉体労働だ。撮影では1テイクごとに水槽の水の入れ替えをするなど根気も要る。ペンキを使う仕事はいろいろな所についてしまって大変だ。撮影が長引くことも多く、友達に会うなどプライベートの予定は組みにくい。取材日も夜遅く撮影現場から弊社へ直行してくれた。しかし、小道具や仕掛けを作る仕事では、機械工学やグラフィックデザインの知識を生かせるし、毎回異なる仕事に関わり新しい技術も出てくるので、「飽きることがない」と話す。
ブルックリンのグリーンポイントにある特殊効果製作会社スウェルで働いて6年、パートタイマーやインターンが出入りするが基本的にフルタイムのスタッフは社長と二人。紙媒体が減り、特殊効果を手がける人が次々に引退する今、スウェルのような会社は稀少価値で、とくに同社は、長年の経験から撮影時に起こる予想外のことに臨機応変に対応できると業界では定評があるという。
余暇は、近所の公園でぼーっと過ごしたり、天然石のジュエリーを作ったり。旅行も好きで、昨年はネパールへ出かけた。「そういう時は早めにお休みをいただきます」。(小味かおる、写真・三浦良一)