靴デザイナー
ピロ貴子さん
ニューヨーク在住12年、シューデザイナー歴はちょうど30年になる。20代は女子美術大学卒業後、靴のデザイン事務所に就職、会社の仕事を半分持っていく形でイタリアのボローニアとスペインのアリカンテに通算5年半、ブルーノマリーなど老舗靴職人の家に住み込んで靴のデザインや作りの修行をした。その後日本へ帰国。日本でシューズブランドを立ち上げフリーランスとして数社と仕事をし、一時は日本の大手百貨店などにもオリジナルブランドの靴が並んだ。東京で米国人男性と結婚して子育てに専念、2人目の出産を機に12年前にNYへ家族と移住した。昨年まで10年間ミッドタウンにあるシューファクトリーに勤務しながら子育てと仕事の両立で奮闘の毎日を送った。ブルックリンの自宅から、最初の頃は日本から持ってきたママチャリに小さな子供2人を乗せてブルックリン橋を渡り、イーストビレッジのデイケアセンターに子供を預けて分刻みでミッドタウンのファクトリーで働く多忙な毎日だった。そんな生活のなかでかつて自分が生み出した数々のブランドがささやく。自分のつくりたい靴はこれだろうか。「走れるくらい履き心地が良くて、おしゃれな靴を作りたい」。シューデザイナーとしてのミッションを感じて立ち上げたのが、ファッションスニーカーブランド『Circle3.nyc』だ。銀座の靴の老舗、ワシントン靴店の3代目。ブランド名は創立者の祖父達への尊敬と感謝を込めて、家族の家紋丸三を英語にしたものだ。三姉妹の真ん中。子供の頃は銀座の本社最上階の祖父の部屋を訪ね、近くで末広ランチを食べたあと不二家でパフェを食べて好きな靴をプレゼントしてもらう数か月に1度の「おじいちゃんデート」の日が楽しみだったという。現在、靴の生産をスペインからイスタンブールに移し、コレクション、オンラインストアなどを新規一転してブランドを再起動させた。貴子さんのデザインする靴は、アッパーは革やエナメルなどイタリア、スペイン仕込みの高級素材に「オールドスクールのラバーソール(ゴム底)」をつけた靴寄りのスニーカーで、貴子さんはこれを「モア・ザン・スニーカー」と呼ぶ。色彩も色系を大切にしているのが特徴だ。「靴を通じて一人でも多くの人を笑顔にしたいです。渡辺直美さんなんかに履いてもらったらピッタリなんですけどね〜」と明るく笑顔で語った。
(三浦良一記者、写真も)