アート通し内側を見るのが好き

アーティスト
桐谷 さえりさん

 アーティストの桐谷さえりさんの作品のメタファーは、常に「内」と「外」の関係だ。人生の中の「安定」と「混乱」という対照的な出来事を常に考慮している。表面的には安定している社会の裏側に焦点を当てたり、一般的には美しいと思われないもの、時にはグロテスクだと思われるような物、またはつまらないと思われるような物から美を追求することが好きなのだそうだ。
 幼児期に筋肉腫瘍の治療のため、2歳から4歳半くらいまで放射線治療を受けていたそうで、放射線は身体に悪いため、なるべく的を絞って当てないといけないということで、放射線治療の直前には局部を除き、放射線予防の帯のようなもので体をぐるぐる巻にされ、ベッドにベルトで固定され、放射時には息を止めなくてはならなかった。考えてみると、この頃の体験が桐谷さんのアートに対してのメタファーになっているのかも知れないと、今になって思うそうだ。
 アイデンティティーや人との関係をビデオを通して探究することは、彼女のアートにとって重要な要素。地下鉄、劇場などの一般的な場所や、ダイナミックな異文化が交わる数々の公共の場で一般の人々の興味を引き、その人々に問題を問いかけていくことが自分の役目だと思っているという。
 ニューヨークの地下鉄では、友人たちの協力参加を得て、ビニールや紙、アルミフォイルでぐるぐる巻にするラッピング・パフォーマンスを行ったり、100ポンドのお米を固めて作った等身大の自分の裸体像を彫刻として展示したり、白装束で髪も顔も真っ白にしてバスケットボールのパフォーマンスをしたり、シャボン玉のようなものがいっぱいついた白い空手着を着た桐谷さん自身のアバター(分身)を演じて人種差別や性差別、同性愛者差別といったさまざまな差別を嫌い、世の中に存在する不平等を相手に真っ向から戦うスーパーヒーローになったビデオ作品「シュワッチ・シリーズ」など奇抜な発想で見るものに常に新鮮な驚きを与え続けている。
 ワシントンDCのスミソニアン美術館ポートレートギャラリー(2013~14)でのグループ展、金沢21世紀美術館市民ギャラリー(2018年)、在オーストリア日本大使館カルチャーセンターでの個展でも好評を博している。 
 日本クラブ7階の日本ギャラリーで4月16日から22日まで、ビデオ・インスタレーション展覧会「国境を超えて/Far from Home)を開催する。(三浦良一記者、写真も)