2000年のニュー・イヤーズ・イブ(大晦日)を、私は知り合いの夫婦の「ダコタ」のアパートで過ごした。ジョン・レノンがヨーコ・オノとともに住み、その前で撃たれた、最高級アパートだ。10人ほどのパーティだった。
1884年に完成したこの優美な館は、ゴシックやフレンチルネッサンス様式を取り入れ、黄褐色のレンガに、切妻屋根、出窓などで装飾されている。広い中庭があり、当時はそこを馬車がひと回りできるようになっていた。エレベーターは、つい最近まで水力で作動していた。
天井まで届きそうな重々しいオークの木のドアが開き、知り合いの家に招き入れられると、そこはまるで美術館のようだ。各部屋はオークションで落札して入手した肖像画やアンティークの家具に囲まれ、目の前にはセントラルパークが一面に広がる。
零時近くなると、アメリカ人のホストが人数分のグラスを取り出し、シャンペンを注ぎ始めた。テレビでタイムズスクエアの中継を見ながら、10、9、8‥‥とカウントダウンを始める。
2000年0時。
ハッピーニューイヤー! と乾杯し、みんなで窓辺に駆けつける。真正面の空に、大きな花火の輪が次々と浮かび上がっては、消えていく。
いつか震えながらセントラルパークで見た恒例の花火だ。音や寒さも体験したい私は、窓を開け、身を乗り出した。人々が歓声をあげている。セントラルパークではミッドナイト・マラソンが始まったようだ。小さな人の群れが一斉に同じ方向に動き始めた。
It’s so far from anything. It might be in the Dakotas.
こんな離れたところなら、ダコタにあっても同じだ。
伝説によれば、「ダコタ」が建てられた当時、人々がそううわさしたため、この名がつけられたという。ダコタはアメリカ中西部の地だ。マンハッタン島は南から開けていったため、この辺りは何もなかったからだ。一方で、当時、ニューヨークの実業家が盛んに西部で鉱山を開拓していたため、これを建てたシンガー・ミシンの社長が、領土征服の象徴として、そう呼ぶことにしたとの説もある。
It’s so far from anything.
あらゆるものから、こんなに離れている。
ミッドタウンの摩天楼や街の明かりを遠くに眺め、うごめく豆粒のような人々を真下に見下ろし、ここは今でも、ほかの世界からはるか遠くにある気がした。
このエッセイは、「ニューヨークの魔法」シリーズ第1弾『ニューヨークのとけない魔法』に収録されています。