私は最近、大失敗を犯した。あまりに最近のことなので、そのことについて書くのも胸が痛い。
ある仕事関係者から、締切を予定より早めてもらえないかというEメールがクリスマス・イヴに届いた。前に一度、無理だと断わったが、とても困っているらしく、再度の相談だった。
お世話になっているので、なんとかしたかったが、ほかの仕事との兼ね合いで、不可能に近かった。パニック状態で、「もう、メリークリスマスどころじゃ、ないわ!」と、愚痴っぽいEメールを日本にいる夫に送った。
と、思い込んでいた。ところが、私は気が動転していたのだろう。うっかりそれを、その仕事関係者本人にEメールしてしまったのだ。
あわてふためき、私はアメリカのインターネットのプロバイダーに電話をかけた。週末にさしかかるので、彼女がそれを目にするまでに数日ある。
Is there anything you can do about it?
なんとかならないですか? と泣きつく私に、
No, there’s nothing we can do about it. Sorry.
いえ、なんともならないですね、残念ですが、とつれない返事が返ってきた。
できることと言えば、その人にお詫びのEメールをすぐに送ることでしょう。
そんなこと、もうとっくにしました。
そうですか。
もう一巻の終わりだ。これだからインターネットなどというのは、便利なようで不便なのだ。
でも、と電話の相手が言う。
Yes? と私は期待に胸が高鳴り、受話器を握る手に思わず力が入る。
It’s Christmas.
クリスマスですよ。
電話の向こうで彼が言う。
だから、その人も許してくれるでしょう。
あるテレビ局の取材で、全米を回った時のことを思い出した。録音機材が規定のサイズより大きかったり、荷物の量が多かったりで、利用する航空会社のカウンターの女性に、数百ドルという追加料金を払わなければならないと言われた。彼女は奥の方で誰かと話をし、しばらくして戻ってきた。
こちらも覚悟し、払おうと思っていると、
It’s Christmas.
女性はそう言って微笑み、特別に見逃してくれたのだ。
私はすぐに例の日本の仕事関係者にお詫びの電話をし、ひたすら謝った。
It’s Christmas.
この思いが伝われば、と祈るばかりであった。
このエッセイは、文春文庫「ニューヨークの魔法」シリーズ第1弾『ニューヨークのとけない魔法』に収録されています。