ニューヨークの魔法 ㉔
岡田光世
向こうの大きなテーブルは、障害を抱えた子どもたちのグループでにぎやかだった。何かを楽しそうに作っている。
私は、アメリカ南東部、ジョージア州のコロンバスという町にしばらく滞在していた。
その日、友人の知り合いが陶芸工房へ連れていってくれた。ジョージア州は粘土質の赤土で有名だ。私にとって陶芸は初めての体験で、ろくろをうまく回すことができず、悪戦苦闘していた。
私がろくろを回す手を休め、ふと顔を上げると、目の前に見知らぬ男の子が立っていた。小学四年生くらいだろうか。
その子は、片腕がなかった。片手で重たそうに焼き物を持っていた。
I made this.
これ、ボクが作ったんだ。
筋骨隆々の恐竜が、Uの字に体を曲げ、鋭い目でこちらをにらみつけている。恐竜の目の前には卵が六つあり、それを食べようとしているのだろうか。
表情がリアルで力強く、今にも動き出しそうだ。指一本一本、卵ひとつひとつにまで、少年の思いが込められているようだ。
Do you like it?
気に入った?
素晴らしいわ。気に入ったどころじゃないわ。
男の子は口元をゆるめた。
This is for you.
これ、君にあげる。
私は耳を疑った。
そんな。何、言ってるの? だめよ。一生懸命、作ったんでしょう。
I like you.
君が好きなんだ。
何度も断ったけれど、男の子はどうしても私にくれるという。
He’s attacking the eggs.
恐竜が卵を狙っているのね。
私がそう言うと、男の子は首を横に振った。
No.
違うよ。
私は首を傾げる。
He’s protecting the eggs.
恐竜は卵を守ってるんだよ。
あれから三十年近い歳月が流れ、恐竜はいつしか、私のお守りになった。
今もリビングルームのピアノの上にある。
住む場所が変わるたびに、卵がばらばらにならないようにテープで止め、丁寧に何重にも包み、恐竜とともに新しい住処へと越してきた。
あなたの宝物を、ずっと大切にします。
あのとき、あまりに突然で、言葉にできなかった少年との、固い約束だと思っている。
このエッセイは、文春文庫「ニューヨークの魔法」シリーズ第7弾『ニューヨークの魔法の約束』に収録されています。