話題作が目白押し

 2020年3月に、NYCの顔であるブロードウェイの灯りが消えて、抜き足差し足でなんとか再開に漕ぎ着けたのが今年の9月。やっと本来の賑わいを取り戻しつつあるのは実に喜ばしいことである! 一足お先に再開したのはディズニー系の「アラジン」、「ライオンキング」、そしてお馴染みの「オペラ座の怪人」、「シカゴ」など。肝心の観劇だが、1年半ぶりとなる今回は正直何でも良い。とにかく一刻も早く劇場の空気を胸いっぱいに吸って、歌と踊りの夢幻の世界に飛翔したいのだ!

 私が選んだのは「Jagged Little Pill」(ジャグド・リトル・ピル)。カナダ出身の女性ソングライター、アラニス・モリセットの空前のヒットアルバムをベースにしたジュークボックス・ミュージカルだ。オフで制作され、2019年にブロードウェイに昇格したが、コロナによって閉鎖に追い込まれ、今年10月に新たに上演を開始した。既存の曲をちりばめて、後付けでプロットやストーリーでもって隙間を埋めるジュークボックス系は、楽曲の知名度&人気は保証済みで、観客からすると知ってる曲を口ずさめるという取っ付き易さも魅力である。

 物語の舞台はNY郊外のコネチカット州。そこに暮らすヒーリー家は傍目から見ると非の打ちどころのない理想的の家族。がしかし、それぞれに人に言えない裏の顔があったのだ。専業主婦のメリージェーンは鎮痛剤依存症、弁護士の夫ステーブは家族を省みないワーカホリック、夫婦中も冷め切っている。養女に迎えた15歳の黒人でバイセクシャルの少女フランキーは白人社会の中で自分の居場所を探している。そして息子ニックは見事ハーバード大学への入学が決まったものの、友人のパーティーで厄介な事件に巻き込まれ・・・。    

 『ジャグド・リトル・ピル』は、ABBAの「マンマ・ミーヤ!」の成功に学び、脚本家、演出家、音楽アレンジャーに世界的な数々のアワードを受賞した超一流のクリエイターを起用。非常に丁寧に制作されており舞台芸術としての質は高い。しかし脚本においては人種差別、麻薬中毒、LGBTQ、レイプなど盛り沢山というより詰め込みすぎで、強烈な印象が残る場面が少ないのは残念。正直言うと、あの辛口のニューヨークタイムズ紙が絶賛したことやトニー賞では最優秀脚本賞を獲得したことが不思議でならない。    

 本作の見所はやはりアラニス・モリセットの楽曲。名曲のオンパレードの中で、私の目を釘付けにしたのは新進女優ローレン・パテンが歌うアラニスの代表曲「ユー・オウタ・ノウ」。恋人との別れを感情込めて歌いあげる彼女のエネルギッシュなステージングは圧巻。毎回拍手が鳴り止まずショーストップになるほど最高に盛り上がる瞬間だ!トニー賞で助演女優賞を獲得したのも納得。ブロードウェイにまた新たなスターが生まれたと確信した。    

 ホリディーシーズンに突入した今、話題作も目白押し。悲劇のプリンセス、ダイアナ妃のミュージカル「DIANA」やマイケル・ジャクソンの半生を描いた「MJ THE MUSICAL」などに注目が集まっている。海外からのお客様がまだ少なく、どの作品も比較的簡単にチケットが手に入る今だからこそ、ブロードウェイ城下町に住む我々がミュージカルを応援したい!尚、コロナ禍のため、劇場に入る際はワクチン接種証明と身分証明書の提示が求められ、劇場内ではマスク着用を厳しく義務化されている。 それでは、皆様、劇場にてお会いしましょう♪

 トシ・カプチーノ:キャバレー・アーティスト/ 演劇評論家、ジャーナリスト130名で構成されるドラマ・デスク賞の数少ない日本人メンバー。週刊NY生活「新ブロードウエー界隈」連載中。TV:TBS「世界の日本人妻は見た!」日本テレビ『愛のお悩み解決!シアワセ結婚相談所』「スッキリ」「ZIP!」studio82℉所属タレント