桜井 妙・著
Amazon Kindle・刊
この本は、日航機墜落事故で上司、同僚、親友を失い、現地で社員として遺族のサポートをした時の経験から日本航空の元国際線客室乗務員(CA)の桜井妙さんが、ストレスの危機管理方法を書いたものだ。自身が35年間苦しみ続けてきたJAL社員の責任、罪悪感、自己嫌悪というネガティブスパイラルにどう向かい合ってきたか、心理学的アプローチから分析して書いている。11月末でアマゾンの哲学・思想事辞典の新着ランキング1位に、認識論の新着ランキングで2位になった。切り口は本のタイトルにあるように「言い訳」の功罪から入っているが、内容はストレスマネジメントとその認知の本だ。
失敗した時に絶対言い訳はしない。謝罪して、そのあと弁解がましいことも一切言わないのが最善の解決方法だと社会人になったばかりの著者は職場で学ぶ。しかしそれが心と体と頭との不協和音になって後々ストレスとなっていくことに触れる。果たして言い訳は本当に見苦しいのか。確かに言い訳は責任回避、自己防衛に聞こえ、些細なことでも被害を被った側にとっては何の解決にもならない。潔く自分の非を認めて謝ってもらった方がどれだけ気持ちが晴れるか。確かに謝ってもらう方の理論はそうだが、理由のある間違いやミスについて「それを語らずして」謝る方は、どんどんとネガティブなスパイラルへと陥っていく。著者は言う。「極端な根性論や精神論のような古い習慣はもう捨ててもいいのではないか。それらは戦国時代には有効であっても今はかえってストレスの原因になる」と。
リスクマネジメントは、日本で「危機管理」と訳されているが、これは想定できるリスクが起きないように危険の原因になることへの対策を立てることを指す。英語で危機管理は「クライシス・マネジメント」と表記され、こちらは、意図せずに起きた危機的状況に適切に対応することを指す。著者が働いていた機内の客室乗務は想定外の意図しない突発的な問題も起こることが多く、問題解決は待った無しだが、時間をかけて困った問題に直面していかなくてはならない時、人は時に心が病み、折れる。「逃げるは恥だが役に立つ」とアドバイスする。困った時に一旦問題から離れることも賢い選択だと筆者は言う。ストレスが溜まっている時は、心の視野も狭くなって正しい判断ができない。アンガーマネジメントとして、腹がたったら90秒我慢して深呼吸をすると怒りが消える。心をストレスのない状態にしておいて行動をすることで未来が開けると説く。うまくいっていることは変えない、もし一度やってうまくいったら、またそれをやる。もしうまくいかなかったら違うことをする。ベストを探すよりベターならすぐに挑戦。諦めないで何かをやり続ける。失敗したらやり直せばいい。凹んでもすぐに復活するゲームキャラクターと同じで逞しく、明るく楽しくチャレンジするのがCA流のストレス管理術だと説く。世の中がパンデミックになり、多くの人がストレスを抱えている。苦しむ心の闇に差し込む一筋の光になればいい。(三浦)