ニューヨークの寿司通にホリデーシーズン最高のギフトが届いた。11月末、アッパーウエストサイドのアムステルダム街にオープンした「竹田寿司」である。本当は筆者だけの秘密にしておきたいくらい愛しい店だが、そういうわけにもいかないので紹介する。
ドアを開けると白木の大きなカウンターにわずか8席のこじんまりした店。予約が埋まり次第、「本日満席」の札を出す。料理は、このエリアでは珍しく本格的な江戸前寿司のみ。少し前菜も出すが、基本「寿司だけで勝負」の店である。
シェフの竹田氏は、30年以上のキャリアを持つベテラン和食職人だ。ニューヨークに渡って25年。「この街の一流日本食料理店で世界の食通を相手にふるって来た腕を、本当の寿司好きのために振るいたい」と決意して開店した。助手は一切使わず、ネタの仕込みから調理、寿司の握りまで一貫してひとりで行う。「何から何まで自分でやらないと気が済まないのです。それを突き詰めたら『寿司』という結論にたどり着きました」と竹田氏。日本人職人特有のこだわりと意気込みが、装飾を廃した清潔なデザインの店内の隅々にまでみなぎっている。
同店の自慢はネタの質と鮮度。マグロ、ヒラメ、ウニなど一部を除き、全ての魚介食材は日本から空輸されたものをシェフ自ら吟味・選定する。メニューはおまかせ2コースだけ。前菜と寿司11貫にハンドロール、椀物が付いた85ドルのコースと、同じく寿司が14貫の105ドルのコース。内容は、魚介の入荷次第で「日替わり」となる。
ちなみにある日の11貫コースのラインナップを紹介すると…マス、マグロ(づけ)、ボタンエビのウニのせ、シマアジ、帆立貝、中トロ、青柳、アナゴ、いくら、コハダ、アジ…、実に豪華である。これで前出のプライスはある意味「あり得ない」。しかも、どの握りも仕立てが美しく、色とりどりの季節の魚介はティファニー・ガラスを思わせる透明感と輝きに満ちている。いずれも煮切り醤油をさっとあしらうのみの提供。カウンターに醤油差しはなく、竹田氏の自信のほどがうかがわれる。
カウンター席の目の前で竹田シェフが見せる職人ならではの所作や無駄のない動きは、まるでダンサーの研ぎすまされたパフォーマンスのよう。それ自体、至高のエンターテインメントである。年末年始のこの時期、大事な人との会食にうってつけのお店ではないだろうか。寿司とのマッチングを考えた品のいい日本酒のラインアップも嬉しい。(中村英雄、写真も)
竹田寿司
営業時間 月〜土曜日:5:30-10:30PM
要予約
566 Amsterdam,
between 87th and 88th Streets
NY NY10024
646-370-6965
www.takedanyc.com