米海兵隊で鍛えた筋金入りの精神力 当代人気の俳優アダム・ドライバーの演技力

Adam Driver. Photo: Magnus Sundholm for the HFPA.

 12月9日に晴れてゴールデングローブ主演賞候補になったアダム・ドライバーは、今やハリウッドの「キアヌ・リーブスの知性派」などと呼ばれて演技力もさることながら、ホットな俳優として女性から大モテなのである。
 今年はスカーレット・ヨハンソンと夫婦役を演じる「マリッジ・ストーリー」と2001年の9・11後のCIAの不法拷問メソッドを監査する政府役人を熱演じている「ザ・レポート」の2本でぎらり、じわりと演技力、存在感を醸し出している。
 特に「ザ・レポート」は9・11事件を扱っているだけにアダムにとっては身悶えするような体験だったと言う。ご存知かもしれないが彼は9・11の攻撃の直後に愛国心に燃えて海兵隊に入隊、2年半程しごかれて、いざ中東戦線に派遣を目前に自転車事故で大怪我をし、名誉ある医療負傷除隊を強要されたという過去を持っているから。
 貧しい家に生まれ、将来のオプションは兵隊しかないという境遇ではなく、自分で決心して米国合衆国を守りたいと入隊したのである。それも「フラタニティー色が濃い海軍、陸軍、空軍と違って海兵隊は入隊時のボーナスなど支給せず、原始的なシゴキで兵士を生産する」という理由で海兵隊を選んだという気骨のある男子だった。
 除隊後、晴れて名門ジュリアード学院に合格してここで古典劇からダンスや歌唱など俳優としての基礎をみっちりと勉強、卒業後もスムーズにテレビや舞台の仕事に恵まれ、「J・エドガー」(レオ・デカプリオ主演)(11)のウォルター・ライルと言う端役が映画デビューであった。
 遠藤周作原作、マーティン・スコセッシ監督の「沈黙」(16)に出演した時のアダムは「マーティーはこの作品を30年間ぐらい暖めていたからアイデアがすべて体の中に入っていて静かに、威厳を持って撮影を進めていた。独裁者のように振る舞っても良いぐらいなのに、孫のような僕らの考えもうなずきながら聞いてくれて、その柔軟性に感動してしまった。撮影まで半年という時に減量を注文され、この17世紀の宣教師たちはリスボンからマカオまで2か月以上かかってたどり着き、そこから日本に来たのだから50ポンド近く痩せただろうと自分なりに考えてダイエットを始めたのだが、勝手に断食などしたために体調が悪くなり、栄養士に従って蒸し野菜とチキン、1日7マイルのランニングと熱いシャワーの繰り返しで最後には51ポンドを達成した」と思い出すのも苦々しいという表情で答えてくれた。
 「マリッジ・ストーリー」では舞台監督の役を演じている。「僕の役柄は監督である前に俳優だったから、書かれた文を役者として表現することは上手でも自分の言葉がすぐに出て来ないタイプなのだね。だからこそ映画の中で『ビーイング・アライブ』という歌をカラオケで歌って自分の感情に気が付き、ここから遂に妻と別れた、離婚は現実だという事実を悟ることになる。微妙に巧く性格が描かれているだろう」
「ザ・レポート」では海兵隊の経験が大いに役に立ったそうだ。「政府の高官に付く低級役人の役だから理不尽な上下関係の違いを理解出来たし、抵抗なしに無言で耐えられないような量の仕事を窓もない地下室の部屋で1日15時間、数年かけての作業を続ける男の気持ちも分かってきた。
 しかも撮影日数が28日間という短さ、技術的な言葉が並ぶ巨大な長さのセリフの暗記、どんなに発見した事実に憤りを覚えても絶対に自分の口から何も言えない不満を全身から発揮して、それでも黙々と毎日仕事場に通い、恋人にも避られ、自分の人生ゼロの状態で滅私的奉公を続ける男を演じるのは、海兵隊の掟を激しく守ることにも似ていたからね」
 そして待望の「スターウオーズ:ザ・ライズ・オブ スカイウォーカー」では再びカイロ・レン役で登場とホット度はアップするばかりなのである。