その9:沿道で目を引く「マフラーマン」

魅惑のアメリカ旧国道「ルート66」をフォーカス

 ルート66ファンの皆さん、こんにちは! ついに2019年も残すところあと僅かとなってきました。筆者も東京に来て3年目となりますが、未だ日本の文化や慣習に馴染めない上に転職も経験し、激流の人生を送っています。(汗)通常秋ごろには短期間ですがアメリカへ帰省するのですが、今年はそれは果たせず郷愁はつのるばかりとなっています。唯一の光は筆者の30年以来のイタリアの親友がこの夏に結婚をしたことでしょうか。真夏のイタリアも暑かったですが、とても楽しく素敵な集まりに命の洗濯が出来ました。皆さんはこの1年、沢山の素晴らしいことがあったことと想像します。
 さて、今月の魅惑の旧街道を行くシリーズのシーズン③ 第9話は、読者の皆さんにはあまり馴染みがないかもしれない「マフラーマン」についてお話したいと思います。マフラーマンとは一体何ぞや? と思われるかもしれませんが、実はルート66とも深いかかわり合いがあるのです。さて、その正体は如何に?
 まずマフラーマンですが、それは主にアメリカで広告用のアイコン、または沿道のビジネス活性化のためのアトラクションや装飾目的として置かれる、大きな鋳造グラスファイバーの像を総称してこのように呼ぶのです。身長は大体約18〜25フィート(約5・5〜7・5メートル)で、記念すべきマフラーマン第1号は「ポール・バニヤン」のキャラクターでした。ポール・バニヤンはアメリカの民間伝承の巨大な「木こり」さんのことです。
 ちょっと古い話なので知らない方も多いかもしれませんが、70年代に流行ったアメリカのコミックで「ジッピー・ザ・ピンヘッド」を憶えていますか? この漫画のなかや多数の書物のなかでもマフラーマンは取り上げられており、筆者の記憶では最近は2012年のニューメキシコ州AAAの季刊誌にて、マフラーマンは50周年記念号の表紙を飾りました。余談ですが。
 ではその「マフラーマン」はどうやって誕生したのかですが、元々ボート作り職人であった スティーブ・ダシュー氏が1963年にある工場を買い取り、「インターナショナル・ファイバーグラス社」として、特大像を造り始めたのが事の始まりです。斧を持った木こりの上記マフラーマン第1号は、アリゾナ州フラッグスタッフのルート66上にあった「ランバージャック・カフェ」の入り口付近に建てられました。しかし、1973年にそのカフェが閉店してしまったことから、その後そのマフラーマンは北アリゾナ大学の所有するスタジアムの横に移転され、現在でも元気にその姿を見ることができます。
 そんなマフラーマン、やはりかなり目を引く宣伝には打ってつけの存在であったため当時は多くの注文が殺到し、約10年間ぐらいの期間でかなりの数が造られ、大体1000〜2800ドルの値段で販売されていたそうです。形も木こりだけではなく、恐竜、カウボーイ、フットボール選手、海賊、兵士、宇宙飛行士等も現れました。何ともアメリカらしいラインナップではないでしょうか。ただ残念なことに軽量ではありましたがかなり大きなもののため、配達コストの増加、そしてグラスファイバーの危険性と合間って、73年の石油危機の影響がラストパンチとなり需要が激減。インターナショナル・ファイバーグラス社は76年に廃業してしまいました。さらに残念なことには、同じ型の鋳造が廃業後に失われてしまい修理修復することが出来ないため、マフラーマンの多くは維持できないまま無くなってしまいました。
 現在アメリカの27州においてマフラーマンは残っていますが、数にして当時の約30%、いや20%ぐらいだろうと言われています。
 ルート66が通過する州かつ、関わりのある街のみで計算すれば、イリノイ州(6)、ミズーリ州(1)、カンザス州(0)、オクラホマ州(3)、テキサス州(1)、ニューメキシコ州(2)、アリゾナ州(1)、そしてカリフォルニア州(1)で合計たったの15体だけなのです(泣)。
 そんななか、2019年はちょっとした「事件」がありました。オクラホマ州タルサの街に新しく一つ、マフラーマンが誕生したのです! 事の始まりは昨年の6月。「Buck Atom’s Cosmic Curios on 66」が、メアリー・ベス・バブコック女史の手によって新規オープン。この雑貨屋はタルサ・ルート66の新たな情報発信地となりました。お店の場所は、オン11番街。歴史的なMeadow Goldのネオンサインがあるビルが建つ、タルサ・ルート66の中心です。そして今年、かねてから計画されていたマフラーマンが実際にそのお店の玄関先に立つこととなりました。21フィート(約6・4メートル)のマフラーマンは地元アーチストのデザインで、「宇宙カウボーイ」です。お披露目当日はタルサ市長やオクラホマ州副知事も参列し、盛大なイベントとなったようです。メアリー・ベスさんの「ルート66を愛し、その歴史的意義や価値を保存し、さらに未来へ残していきたい」という意思を見に、タルサまで小旅行はいかがでしょうか。
 読者の皆さんはオクラホマ州と聞けば牧場や田舎を想像するかもしれませんが(否定はしません 笑)、タルサの街はその歴史と国際色豊かな文化に溢れた、さらに言えば「お洒落なレストラン」なんかも多い、とても素敵な中都市です。それではまた来年、お目にかかります。良いお年をお迎えください!
(後藤敏之/ルート66協会ジャパン・代表、写真も)
■訂正とお詫び=11月16日号の本コラムのタイトルに間違いがありました。正しくは「その8:そうだ!この冬はサンタフェに行こう!」、デジタル版は修正済みです。お詫びして訂正いたします。