今回の中間選挙では、夏までに行われていた共和党の予備選では、トランプ前大統領が推薦する候補が圧倒的な強さを見せていた。つまり、共和党の現職である議員や知事、あるいは穏健派の候補に対して、トランプ派の候補がどんどん統一候補の地位を奪っていったのだ。一部の統計では、予備選におけるトランプ推薦候補の勝率は、166勝10敗で勝率は94%という数字もあるぐらいだ。
その時期には、トランプ派の主張は警戒されていた。例えば「2020年の大統領選でのバイデン勝利はウソだ」などという主張は、無党派中間層には敬遠されるに違いない、そうした分析がされることが多かった。事実、共和党本部はこうした予備選の推移に頭を抱える局面もあった。
こうした経緯を考えると、今回の中間選挙における共和党の優勢(注、万が一、民主善戦の場合は、この「優勢」は「健闘」に変更)という事実を踏まえると、トランプの復権は確かであり、この勢いで2024年の大統領選へ向けての候補となる可能性は濃厚と思うのが自然かもしれない。実際に、日本ではそのような見込み報道が多くなっている。
だが、ここ1週間から10日の動き、つまり今回の中間選挙の直前の政治情勢を見ていると、必ずしもトランプ躍進という評価は出来ない。全く別のモメンタムが動き始めているのを感じるからだ。
まず今回の中間選挙の結果だが、共和党がかなりの集票を実現できた背景は、トランプ人気の拡大ではない。まして、2020年の選挙結果への異議申し立てでもない。原因は1つ、無理に拡大してもせいぜい2つである。1つは勿論、インフレだ。もう1つは都市部の治安問題である。特にここニューヨークの場合は、コロナ禍の出口に差し掛かっても治安問題は一向に解決せず、市民の怒りはかなり溜まっている。
自分たちはインフレと治安問題に苦しんでいるのに、バイデン大統領は、環境問題、中絶問題、そして民主主義の危機の話ばかりしている、そんな印象が広がったのだった。結果的に、その怒りがある臨界点を越えることで、トランプやトランプの推薦する候補は決して好きではないが、それ以前にインフレと治安問題への怒りから、今回は「共和党に投票する」という行動に至っているのだと考えられる。
つまりトランプへの支持が拡大したのではなく、民主党への怒りが巨大な投票行動になった、今回の中間選挙についてはそのような説明をする必要がありそうだ。では、その「トランプへの支持ではない」共和党票は、この先、2024年の大統領選ではどちらへ向かうのだろうか。
勿論、共和党としては大統領候補のトップランナーはトランプで変わらないという声もある。事実世論調査をすると、トランプが2024年へ向けての候補ということでは今のところはトップである。だが、今のトランプは2016年とは違う。まず、ペンス前副大統領とその支持者とは、既に決裂している。長女のイヴァンカ夫妻とも政治的には喧嘩別れとなっている。何と言っても2021年1月6日の議会暴動事件などを巡って、また機密文書持ち出しや脱税などの容疑もやがて事件化されるかも知れない。そんな中で、2020年に僅差で敗けた票数を再び取るのは難しいであろう。
そこで出てきたのが、共和党の第二の候補、ロン・デサントス・フロリダ州知事である。コロナ禍に際して一切の対策の強制に反対とか、移民のニューヨーク「送りつけ」など、「ミニ・トランプ」と呼ばれるようなポピュリズム政策を平気でやる人物だが、一方で、イエール大を優等生表彰されて卒業、ハーバードの法学博士で、かつ海軍SEALSにも属して戦功に対して勲章も受けている。そして何よりも44歳と若い。もしかすると、保守派として大衆的な人気を得ながらも、政策としてはレーガンのような最善手を選択できる人物かもしれない。反対に、あくまでポピュリズムに依存して失敗する政治家という懸念も残る。いずれにしても、ここへ来てこのデサントスという「トランプ以外の選択肢」が出てきたというのは重要だ。
トランプはこのデサントスを警戒して、突然悪口を言い始め、自分は11月14日に大統領選への出馬表明をすると言い出した。こうなったら、この両者、予備選における徹底的な論戦で勝負をつけてもらいたいものだ。
(れいぜい・あきひこ/作家・プリンストン在住)