ハレルヤ!

ニューヨークの魔法
岡田光世

 サンクスギビングに、サウス・ブロンクスの教会に行った。この辺りは犯罪多発地帯として悪名高い。午前九時半、礼拝堂にはすでに二十人ほどが集まり、静かに祈っている。祭壇の前の床にも数人がひざまずき、祈りを捧げている。

 最後列に男の人が三人すわり、祈っていた。やがて別の男がやってきて、三人を後ろから抱え込むようにして、一緒に祈り始めた。

 彼らはみんな、長いことホームレスだった。お金が手に入れば、ドラッグをやった。クッキーやリンゴを買って、腹の足しにしていた。この教会に出会い、メンバーがアパートを探してくれた。

 やがて礼拝堂はいっぱいになった。礼拝は延々と二時間続いた。牧師の説教のところどころで、人々が両手を高く掲げ、ハレルヤ! アーメン! と大声で叫ぶ。歌い、踊り、体中で神を賛美する。

 傷ついた者たちよ。前に来なさい。

 牧師がそう呼びかけると、人々が前に集まってくる。牧師が祈りながら額に触れると、彼らは崩れるように床に倒れる。体が震え出す人もいる。肩を抱き、泣き合う姿が、あちこちに見られる。

 女性教会員がホームレスの男の人の隣にすわり、肩や頭を優しくなでている。完全に目のすわったその男の人は、彼女の手が頭に触れるたびに、意識を取り戻したかのように目を開け、彼女が開いた聖書のページに目をやる。

 礼拝のあと、メンバーらが外を歩き回り、道をうろつく人たちに、サンクスギビングのディナーに来ませんか、と呼びかける。

 この辺りにはドラッグ・ディーラーもたむろしている。ホームレスの人たちのために、メンバーが手分けして、八十羽のターキーを焼き、ピラフを作り、テーブルを用意し、給仕しているのだ。

 しばらくすると、教会の前には長蛇の列ができた。

並んでいるホームレスの男の人が、仕事でカメラを持っていた私に声をかけてきた。

 俺の写真を撮ってくれよ。今日、この場にいたことの証拠にさ。来年はここにはいないように、頑張るからよ。

 You never know.

 どうなるかは、誰にもわからない。ひょっとしたら、来年のサンクスギビングには、彼はホームレスを迎える側にいるかもしれない。

 このエッセイは、文春文庫「ニューヨークの魔法」シリーズ第1弾『ニューヨークのとけない魔法』に収録されています。

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