コロナ時代の帰国受験 第3回 田畑康
今年、受験生や家族、また私ども学習塾関係者がとてもやきもきしたのは、私立中学・高校が「入試要項」を発表する時期が例年よりもとても遅かったことです。
例年だと多くの学校が6月までには説明会とともに発表する入試要項が、軒並み7〜8月までずれ込んでいました。いうまでもなく、コロナ禍のなかでどのような入試を実施するのか、各学校が悩まれていたことは想像に難くありません。そして、発表された入試要項の多くには「新型コロナウイルスの感染状況によって内容に変更がある場合は…」というような文言が書かれています。
一般入試では、数千人規模の受験生を集める人気校などは試験会場がコロナのクラスターにもなりかねないわけで、安全対策はいくら立てても安心できないだろうことがうかがえます。とはいっても、発表された要項の「一般入試」の項目を見る限りでは、試験会場の増設や時差登校などをはじめ、可能な限りの安全対策を施したうえで、例年とほぼ変わらないような入試の実施を予定している印象です。
そのようななかで8月、一般入試の一部に「在宅オンライン入試」を取り入れると説明会で発表した都内の私立学校が複数ありました。家族が感染者や濃厚接触者になったりした場合などを想定し、校舎に来られない受験生を配慮した取り組みで、大変注目を浴びました。
しかし翌9月、東京私立中学高校協会は、公平性の担保が難しいことなどを理由にオンライン入試の自粛方針を発表しました。安易な受験生獲得競争を防ぐ目的もあるとのことでした。(神奈川県・埼玉県・千葉県の私学協会は「各校判断」と発表していて、実際にオンライン入試を実施する学校があります)
帰国生入試に話を戻します。前回の記事では、今年度の帰国受験生にとっては帰国後の「2週間の自主隔離期間」が受験スケジュールの立て方に大きな影響を与えるという状況をお伝えしました。しかし、海外生にとって悩ましいそのような状況を救済するがごとく、「帰国生入試に関しては『オンライン入試の自粛』の対象ではない」という発表も東京私立中学高校協会によってなされています。
受験のために帰国した後の「2週間の隔離期間」のみならず、海外にいながらでも受験ができるチャンスが広がったわけです。
私が指導している早稲田アカデミーニューヨーク校にも在宅入試を受験する生徒がいます。コロナ禍が「新しい入試」のフェーズを生んだとも言えましょう。来年度以降も「オンライン入試」がキーワードになりそうです。
田畑康(たばたやすし)
早稲田アカデミーニューヨーク校校長。海外生・帰国生指導歴15年。自らも帰国生(オーストラリア、マレーシア)であった経験を生かし、「合格のその先」を見据えた指導を心掛けている。