香港
ブルックリンのシープスヘッドベイに住む香港出身のエルザさんがエッグタルトを作ってくれると言う。マンハッタンのチャイナタウンでよく見かけるこのお菓子は私の大好物。「わあ! 家庭でも作るんですか?」と思わず歓声。 調べてみたら、エッグタルトは、ポルトガルの焼き菓子が香港で定着して国民的スイーツに。ポルトガルのは表面を焦がすが、香港式(イギリス式)は表面が黄色く光るようになめらかなのが特徴。澳門(マカオ)ではポルトガル風とのこと。
「手順は簡単、でも上手にきれいに焼き上げるのが難しい」というエルザさんの作業は、クラストの材料をハンドミキサー、ゴムベラ、最後に両手でと加減を見ながら混ぜ、生地を塊にした時も型に押し付けた時も、ささっと冷蔵庫で冷やすなど、一つひとつ丁寧だ。 次に真ん中のフィリングに着手。見た目も舌ざわりもよくするには3回濾すのがポイント。温度も大切なポイントの一つで、焼き具合をみながら少し温度を下げて合計30分弱焼く。エルザさんは熱々が一番というが、翌日冷めたのを食べても充分美味しかった。
焼きあがる間におしゃべり。エルザさんは、10年前に大学を卒業してニューヨークに来た。先に米国移住した叔母さんが会社を起こして声をかけてくれたから。当時は香港が中国に返還されて10年目。「そのことととは関係なく、ただ外の世界を見てみたかった」と言う。2年前に同僚の紹介で知り合った国家公務員のテリーさんと結婚。テリーさんは15歳の時に家族で香港から移住した。二人は2階に、1階にはテリーさんの母親とお兄さんが住み、毎日の食事はお母さんが作ってくれるそう。「香港は変わってしまった」とだけ言い寂しそうな表情を浮かべるが、お母さんに会いに毎年のように帰省する。その途中で、大好きな日本によく寄るという。「そういえば、大阪の大観覧車で彼女にプロポーズしたんだ」とテリーさん。
さて、エルザさんのエッグタルトの思い出、それは猛勉強した子供の頃のこと。「小・中学生の時、放課後の補習があって、いつもお母さんが差し入れてくれた」。香港中で実施される統一進級試験があって、先生が学校の名声のために一丸となって放課後の補習を指導したという。「辛い勉強の合間にお母さんが持ってきたエッグタルトを食べるのが本当に楽しみだった。店で買う時もあったし、手作りの時もあった。お母さんのはもっと甘かった」。(小味かおる、写真も)
材料と作り方(8個分) <クラスト> 材料:無塩バター70g、菓子用粉砂糖30g、薄力粉120g、卵L1個。 作り方:柔らかくしたバターと菓子用粉砂糖をハンドミキサーで混ぜたあと、 卵を少しずつ加えて薄力粉をふるい入れ、ゴムベラでさらに混ぜ両手でよくこねて滑らかにしたら、 長方形に整えて、ラップに包んで冷蔵庫で冷やす。8分割した生地(1個分は約40g)を バターを塗った型に押し付けるよう整形し、また冷蔵庫で冷やしておく。 <フィリング> 材料:グラニュー糖50g、温水50g、卵L2個、牛乳120g。 作り方:グラニュー糖を温水に溶かし室温に冷ました後、卵と牛乳を混ぜ、3回漉す。 <焼き方> 冷蔵庫から冷やした型を取り出し、底にフォークで穴をあけ卵液を注ぐ。 374℉(190°C)に予熱したオーブンの下段で8~10分焼いたあと355°F(180°C)にして 10~15分焦がさないよう、差した串にフィリングがつかなくなるまでさらに焼く。 (注意)クラスト、フィリング双方にバニラエクストラクトを入れてもいい。 今回のクラストはバター生地のみだが、バター生地とウォーター生地とを合わせて作る方法もある。 フランスの練り込みパイと折り込みパイを彷彿とさせる。