ホテル「幽霊屋敷」体験談

ニューヨーク州に散在する84軒

 日がすっかり短くなった10月、大きな月が田舎道を明るく照らすとハロウィーン祭でなくとも幽霊の出没をが肌に感じられる。アメリカの幽霊は収穫の秋に出てくる。

 ハロウィーンに限らずニューヨーク州には84軒の幽霊屋敷が、ニューヨーク州の観光促進スローガン「アイ・ラブ・ニューヨーク」の「幽霊の歴史の小道(Haunted History Trail)」にリストアップされていて、旅行者は年中いつでも訪れ、宿泊できる。「幽霊」は宿によってさまざまな背景のストーリーがあり、史実に基づいて語り継がれた幽霊が出没する屋敷からアーティストの創造による娯楽性満点の幽霊屋敷まである。

  マンハッタンから車で3時間足らずのハドソンバレーにある「ウイング夫妻の城(Wing’s  Caste)」に1泊してみた。客室たった3室のB&B(Bed and Breakfast)だが、筆者が泊まった部屋は正に中世ヨーロッパの「城」の地下牢獄。部屋もそこへたどり着く回廊も全て石造り、清潔なシャワーとふわふわの心地よいベッドがあるが、凝った照明とインテリアがあっても、あくまで牢獄を演出。それでも床石に暖房仕掛けがあり、足も冷えず晩秋の寒さでも部屋はホカホカ暖かくて快適。居心地の良さにすっかり幽霊を忘れていると、深夜に自然にロウソクの灯が点り、夜明けと共に静かに消えた。

翌朝、城のダイニングホールで朝食を取った後、「城主」のトーニ・ウィングさんが館内やそこに「宿る」幽霊を案内してくれた。約50年前、当時23歳のアーティストであり新婚夫婦だったトーニさんと夫のピーター・ウィングさんは、1888年からウィング家が所有していた12エーカーの土地に「城」を建てるというロマンチックな構想を立てた。その時のスケッチに基づいて、ピーターさんは「城」を設計し、ハドソン渓谷で購入したり見つけたりしたリサイクル材や回収材を使用して構築した。1980年代になると、この城は地域の観光名所になり始め、訪問者が増えていった。城が完成すると、ピーターさんは「B&B を始めよう」とトーニに言った。 以後22年間、夫婦は城の後半となる客室の建設を始めた。

 「ゴシック様式の城には 7 つの塔、堀、金魚の池があり、ハドソン川渓谷の素晴らしい景色を眺めることができます」と、トーニさんはガイドしながら説明してくれた。2人がウィングの城を宿泊客に開放する段階に近づいていた矢先の2014年、ピーターさんは交通事故で亡くなり今はトーニさんが「ウイング夫妻の城 B&B」を経営している。(ワインスタイン今井絹江、写真も)