新たな総理大臣が誕生しても、1年も経つと支持率が低下しやがて交代に追い込まれる。こうした現象は昭和の末期、福田赳夫政権の頃から延々と続いている。例外は、中曽根、小泉、安倍(第二次)だけで、その他はほぼ全ての政権が似たような運命を辿ってきた。理由としては、総理の器が小さくなったからだとか、与野党伯仲、あるいはねじれ国会に苦しんだからだという解説がされることが多い。
けれども、今回の岸田政権は必ずしもそうではない。高い支持率で出発して、その水準を維持していたのである。ところが、国葬と旧統一教会の問題で支持率が急落した現在は、一気に更迭論が出入りするところまで来ている。その前の菅義偉政権も、コロナ禍と五輪の強行開催で簡単に崩壊した。民意の振幅に揺さぶられているとしか言いようのない事態である。余りに情緒的で激しい民意の揺れを目にした私は、まるで「ろうそくデモ」で朴槿恵政権を潰した韓国の民主主義のようだという解説をしたことがある。少々強引な比較であったようで、左右両方の支持者からお叱りを頂いた。
批判されたからというわけではないが、その後色々と検討をしてみた結果、1つの大きな問題があることに気づいた。それは、日本の選挙が「多すぎる」ということだ。まず、日本の選挙のサイクルは参議院が3年おきで基本的に7月である。また、衆議院は解散があるので時期は不規則だ。衆参同時選をやっても、衆院の任期は4年であるから解散がなくても次は同時にならない。その他には統一地方選があるが、これは4年サイクルで時期は4月となっている。だが、任期途中で首長の交代があったり地方議会の解散があると「統一」のサイクルから離脱するケースも多くなってきた。
そんな中で、今回の岸田政権は2021年秋の衆院選に勝利し、2022年7月の参院選に勝利したことから「黄金の3年」、つまり国政選挙が向こう3年はないことから安定的に政権を運営できるはずであった。では、どうして更迭論が出ているのかというと、来年2023年4月には統一地方選があるからだ。現在、日本の野党は政権担当能力という点では民意の信頼を全く得ていない。だが、与党への不満があると、地方選ぐらいはということで民意が「野党に浮気」することは十分に有り得る。そんな中で、自民党の地方議員としては政権が不評なために自分が議席を失っては大変だ、ということで浮足立っているのである。
つまり、衆院選以外に多くの選挙が異なったタイミングで発生する、要するに選挙を小刻みにやるように日本の選挙制度ができているのだ。そうなると、政権選択選挙である衆院選以外では、有権者は「平気で浮気」をする。自民党としては、これを恐れる余りに、政権の支持率が下がるとすぐに「顔」をすげ替えるという習性が身についたというわけだ。これでは、新しい政権を作っても、結果を出す前に交代させられるわけで、国としての政策が迷走するのも仕方がない。
アメリカの場合は、11月2日以降の最初の火曜日が「選挙の日」と定められていて、大統領選、上下両院選、地方選もこのタイミングに集中し、巨大な「同時選」となる。では日本のダブル選挙のように「常に与党有利」になるかというと、全くそうではない。「大統領は人権を重視して民主党から、知事は税金の無駄遣いを避けるために共和党に」などと、投票行動を変える有権者は多い。連邦議会の選挙も、党議拘束がないので候補の政策を吟味して投票がされる。
勿論、二大政党制の確立に苦しむ日本の場合は、アメリカ流を即時に導入することは非現実的だ。だが、選挙が多すぎるために、総理大臣をクルクル「交換する」ことになるという問題は、一度冷静に考えてみる必要はありそうだ。
(れいぜい・あきひこ/作家・プリンストン在住)