ニューヨークの魔法 ㉒
岡田光世
頭から足の先まで、体中を包帯でぐるぐる巻きにされた女の子が、両親に手を引かれて歩いてくる。アッパー・ウエストサイドの閑静な住宅地だ。
That’s spooky!
人々は思わず、振り返る。
ひと足先に、今年もハロウィーンがやってきた。
気味悪い! と思わず叫びたくなるお化けが、街をさまよっている。
ゲイルはハロウィーン直前の金曜日に、服はもちろん、マニキュアまで、パンプキン・カラーのオレンジに統一し、仕事に出かけていった。
ハロウィーン当日は、ダウンタウンで名物の仮装行列が行われ、マンハッタン全体がお化け屋敷と化す。
仮装行列をしっかり見たことがなかったので、今年こそは雰囲気を味わおうと、パープルずくめで出か
けていった。それでも、パープルのカツラをかぶって街を歩き、地下鉄に乗る勇気はなく、目的地に着いたらかぶろうと、バッグに入れた。
人出は予想以上だった。ほとんど動けない状態で、何も見えず、群衆の叫び声から興奮が伝わってくるだけだ。
楽しいのは、仮装行列より、そのあとだ。彼らはそのままの姿で日常に戻る。顔を真っ白に塗ったピエロが地下鉄に乗り、大きなパンプキンのお化けがスーパーマーケットでトイレットペーパーを買っている。
レストランでは、ドラキュラ(人間)が黒ずくめの魔女(人形)をひざに抱いて、スープをすすっている。街角で、血のしたたる斧を手にした死神が、ホットドッグにかぶりついている。
だいたい、仮装行列では、仮装とわかり切っているのだから、意外性がないではないか。両親に手を引かれた、あのミイラの女の子のように、ごく日常の世界にふっと現れるからspookyなのだ。
そう自分に納得させながらも、出番のなかったカツラがなんだか哀れだ。仮装行列ならまだしも、パープルのカツラをかぶってひとり日常に戻る勇気はない。せめてもと、バッグから取り出したカツラを手に、とぼとぼ家路についた。
このエッセイは、文春文庫「ニューヨークの魔法」シリーズ第1弾『ニューヨークのとけない魔法』に収録されています。