フロリダ州ディズニーワールド

エプコットの花火ショーと食の祭典

 もう昔の事になるが、フロリダ・ディズニーワールドのエプコットにある日本館スタッフとして約1年間勤務していた。レストラン勤務の私の生活は夜中心だったため、当時の生活を思い出す時、必ず頭に浮かぶのはエプコットの夜の花火ショー。それが始まる音が聞こえると閉店の合図。「今日もお疲れ様」ときちんとその日を終え、明日に紡いでいくような気持ちにさせてくれた。エプコットに来るゲストも心待ちにしているイベントだったし、内容も素晴らしかった。ディズニーワールド内の夜のショーはマジックキングダムが断トツで花形だったが、エプコットの花火ショーにはコアなファンが多く、それだけを見に来るゲストもいたほどだった。
 その思い出深い花火ショーが今年9月に20年の歴史に終止符を打つという悲報を聞き、これは最後の勇姿を見に行くべきだと、当時の仲良し同期4人(東京から2人、NYから友人と私)がフロリダに集合した。
 当日は朝から気合い充分で、事前にお揃いで用意していた「Reunion for the farewell illuminations」と書かれたオーダーメイドTシャツと、当時プログラム修了式でもらったミッキー卒業帽子を着用し、エプコットの大人気イベントであるフード・アンド・ワイン・フェスティバルを楽しんだ。いい歳してこの出で立ちは失笑されるかもという懸念もあったけど、老若男女問わず皆思い思いのディズニースピリットをさらけ出せるのがディズニーマジックということで全員一致だった。
 フード・アンド・ワイン・フェスティバルはエプコットの入場チケットだけで参加できる。入口でパスポートをもらって自分で好きなフードやドリンクを購入して楽しめる気軽さと、世界レベルでも引けを取らない料理の質の高さから不動の人気を誇り、年々ブース数も増え、ワールドショーケース(11か国のパビリオンが集まる万博のようなエリア)にある国以外にも多くの国々が自慢の数皿とそれに合うペアリングドリンクを販売していた。タイのレッドカレーとシュリンプサラダ、バハマのジャークチキン、メキシコのマルガリータとブレッドプディング、スイスのラクレットチーズ、インドのチキンコルマ、イタリアのスパークリングワイン、中国のブラックペッパーシュリンプヌードルとマンゴタピオカティー、スペインのパエリアと生ハムチーズオリーブのサラダ、日本の冷たいラーメン、カナダのフィレミニョンと赤ワイン。各国ご自慢の渾身の料理とドリンクを思う存分堪能しながら、花火ショーのどこが好きかとギークなトークに花を咲かせ、フロリダの生暖かい空気と湿り気を感じながら、花火ショーが始まるまでの長い日中、懐かしの地を練り歩いた。
 ショーはワールドショーケースの真ん中にあるラグーンで毎晩9時から行われる。開始30分前から思い出深い古巣である日本館の鳥居前に場所を取り、カウントダウン的なアナウンスを聞きながら待ちわびた。
 花火ショー(正式名称はイルミネーションズ : リフレクションズ・オブ・アース)は地球の始まり、歴史そして未来を、花火と映像と音楽で演出している。他のパークのショーのようにディズニーキャラクターが出て来ることは一切無く、キャラクター頼みもしない分、中身も深くブレない点が私たちのようなファンが愛してやまない部分だと思う。プロジェクション・マッピング全開のような華やかさは無いが、クリエーターによる丁寧な作り込みを感じることができる。
 前半パートは力強い音楽と共に迫力のある花火が打ち上げられ、ラグーンの水もウォーターアートとして彩りを添え、躍動感あふれる地球の誕生を祝っているかの様だ。そして大きな地球儀が水面上を中央に移動し、穏やかな音楽と共に、雄大な自然や世界の国々の歴史的映像がそこに映し出される。
 後半は明るい未来に向かっていくような音楽とともにワールドショーケースの各国の建物が順番にライトアップされ、どの国も例外なく頼もしく勇ましく映る。ラグーンの地球が半分にゆっくり割れて火が灯り、最後は壮大な音楽と花火でフィナーレ。「地球上のすべての国の未来が明るく素晴らしいものでありますように」というウォルト・ディズニーからの強くあたたかなメッセージを感じつつ、万感胸に迫る思いで最後の鑑賞を終えた。「私はどこかでずっとエプコットを引きずって生きてきたような気がするけど、やっと卒業しようかな」と友人に言うと「じゃあマイクを置こうか」などと皆で笑い合った。
 エプコットファンには朗報で、10月1日から「エプコット・フォーエバー(期間限定)」という花火のショーが始まり、さらに2020年「ハーモニアス」という花火ショーも始まる。音楽、LEDパネル、最新レーザー技術など余すことなく現代テクノロジーを駆使し、さらにスケールアップした壮大なショーになるというので、これも見てみたいという気持ちもやっぱり否めない。フード・アンド・ワイン・フェスティバルも来年はさらにパワーアップしているだろうし、卒業宣言を撤回し、またエプコットに行く日もそう遠くはない気がする。そして何よりも、ディズニーファンの方にもそうでない方にも次のご旅行プランに強くお薦めしたい。
(野田恵里子/IACEトラベル広報課)