君はリンゴで世界を驚かせるだろう 書評

巨匠の名言で人生変える

ARISA・著 飛鳥新社・刊

 もし、歴史に名を残す世界の名だたるアートの巨匠たちが、あなたの目の前に現れて、彼らの日頃考えていることや、悩み、呟き、思いをそっと聞くことができたら、人生が変わっても不思議ではない。

 なにしろ出てくる画家が、セザンヌ、ピカソ、ウォーホルにバンクシーたちで、しかも日本語で話かけてくる。さらに案内人が怪しい関西弁を操り、サルバドール・ダリの生まれ変わりを名乗る謎の男ダレときた。「ワイは、すごい携帯持ってるのよ」というそのガラケーを使えば、時空を超えて現代アートの巨匠たちが目の前に現れるという設定で、九州から大阪に転勤になり、壁にぶちあたっていた地方出身の新人サラリーマンがアーティストたちの教えを受けて、ニューヨークのビジネスシーンでも賞賛を浴びて人生を変えていくというオーマイガーのストーリー展開。

 「才能を持ちながら成功していない人間ほど、この世の中に溢れかえっているものはいない」(バンクシー)、「いつまでもウジウジ悩んで惨めな気持ちでいる代わりに『So What? だから何?』で終わらせることだってできるんだよ」(アンディー・ウォーホル)、「天才になりたかったら、天才のふりをすればいい」(サルバドール・ダリ)、「明日に延ばしていいのは、やり残して死んでもかまわないことだけだ!」(パブロ・ピカソ)、「僕の絵の源泉は無意識なんだ」(ジャクソン・ポロック)、「確実なことは一つもないのよ。すべては変化し、動き、巡り、飛び、いなくなるから」(フリーダ・カーロ)、「最高であろうとするのを目指すのは誤りで、成功を自分で定義しなくちゃいけない」(ダミアン・ハースト)、「リンゴひとつでパリを驚かせてみせる」(ポール・セザンヌ)といった具合。

 主人公の青年は、これらの言葉に出会うごとに成長し、仕事が前に進み、社内外からも高い評価を受けていく。歴史に名を止めているような、巨匠たちの名言は、現代のビジネス社会での決断や人生をどう生きるかという迷いに、予期しない方向から光を投射して来る。「ビジネスの黄金法則」にも通じる不思議なる世の本質を炙り出す一冊だ。

 著者のARISAさんは、いたみありさ名義で『学校では教えてくれないアーティストのなり方』(サンクチュアリ出版)で日本人若手アーティストたちをNYデビューさせてきたアート集団JCATの代表でもある。3年の年月をかけて、巨匠たちの言葉をコツコツと拾い集めたという労作ながらその苦労を感じさせない軽さがいい。野生爆弾くっきー!のインパクトのある表紙絵も本書の性質にぴったり。まるで宝石の原石を磨いているような気分になれる本だ。企画協力が土井英司氏と聞けばさもありなんと納得。   (三浦)