ジャズピアニスト浅井岳史のオーストラリア旅日記(6)
今日はオーストラリアの最終日、実はあるオーストラリアの作曲家とのミーティングを私は今日と提案していたが、どういうわけか彼は昨日だと勘違いしていたことがわかった。昨日とは打って変わった曇り空を見ながら、昨日はミーティングではなくシドニーのハイライトに出かけてビーチを堪能できて本当によかったと思った(失礼)。
さて、最終日はシドニータワーから始める。昨日のウォーキングツアーで紹介されていたので、早速行く事にした。入場料がベラボーに高いが、このあと行きたい自然動物園もセットになっているので、チケットを買って上に登る。このタワー、何処かハチミツをすくう道具に色も形も似てる。展望は予想通りハーバーのオペラハウスとブリッジが目玉である。何故か展望台には中国の屋台が出ていて、そこで焼売を売っている。急に食べたくなったが我慢して下に降りた。
そこから、動物園へ。そう、ここに来たら見なければいけない動物がある。南半球で独自に発達を遂げた有袋類、特にコアラとカンガルーである。その昔、コアラブルーというブランドがあった。歌手のオリビア・ニュートン・ジョンがプロデュースしていて、私の父親がオーストラリアのお土産に買ってきてくれた。しばらくしたら実家の近所に店が出た。動物園は、蝶や、ヘビ、ウォンバット、ワラビー、タスマニアンデビル、ダチョウのような大きな鳥から巨大なワニまで、ありとあらゆる種類の動物がいる。でも、やはり圧巻はコアラだ。間近で見ると顔が面白すぎる。必死に木の上で葉を食べるか、爆睡するかしている。隣で、人が写真を取っているのに寝続けられるという神経にびっくりした。夏にユーカリの油を含んだ葉から出火して山火事になっても、動きが緩慢すぎて逃げられないという哀れな話はどうやら本当のようだ。
カンガルーはそれに比べて非常に繊細な動物のようだ。手足のバランスが著しく違うので、一見大変そうだが、平和な顔をして大根の葉っぱを食べていた。初めて知った事だが、彼らは直立するために二本の足に加えて尻尾を使う。尻尾で立って両足の向きを変えたりもする。よく見ると、尻尾は脚よりも太く、地面につくところは平らになっている。奇妙だが、愛らしい動物である
他にも夜行性なので極度に暗い檻に入ったトカゲ、巨大なゴキブリやハエなどあまり見たくもない昆虫もいっぱいいた。綺麗な若い女性スタッフが手にウジ虫を乗せて見せてくれた。
さて、「コアラと記念撮影をするとシャツを破かれる」と忠告してくれた友人がいたので、眺めるだけにして、動物園をあとにした。海辺の綺麗なスポーツバー風のテラスに、オージーステーキ9ドルという看板が出ていた。それは食べるしかない。早速注文して出てきたステーキは単純な味付けだが、とても美味しく幸せな気分にしてくれた。海辺を行き交うさまざまな国籍の人々を眺めながら、非常に国際的で住みやすい街なんだろうと感じた。
さて、夕刻迫るシドニーで私たちが選んだ最後のアトラクションはFish Market。さらに歩いて閉店間際の魚市場に入った。さすが海に囲まれた街だけあって、立派な魚市場がある。この海と大都会という立地条件はシアトルに非常に似ていると思う。ここにも中華料理店が入り、新鮮な魚を美味しそうに調理してくれているようであった。お腹が空いていればさぞかし美味しいシーフードを楽しめるだろうと思いながら今回は諦めて、大人しくバスでホテルに帰る。
ホテルの近くにはUTS(Universiry of Technology Sydney)のキャンパスもあり若者が大勢いて活気がある。その近くに、今回の旅ですっかりファンになってしまったアイスティーをもう一度楽しむ事にした。Cocoという名の小さな店には列が途絶えることはない。ほとんどが中国系の若い女の子で、中年の男性は私一人であった。でも、その冷たさと香りの良いティー、そこにタピオカが沈んでいて、最後にストローで吸い上げるこのドリンクはたまらない。ニューヨークにも早く進出してほしい。
オーストラリアは本当に面白いところだ。これだけアジア系とヨーロッパ系が混じり合っている街を見たことがない。食べ物も日本人の私たちには優しい。
ニューヨークからは地球の裏側に当たるこの遠い国だが、秋の忙しいスケジュールをやりくりしてやって来て本当に良かった。まさにアジアパシフィックだけあって、今たくさんの移民がやってくるメルティングポットだ。遠いので簡単には来れないが、三年後かどうかは別としてまた戻って来たい。コンサートを企画してくれたピーター、スタッフの皆さん、街の人、本当にありがとう!(終わり)
(浅井岳史/ピアニスト&作曲家)www.takeshiasai.com