同時多発テロ報告書全和訳へ

住山 一貞・著
ころから社・刊

 米国同時多発テロで当時富士銀行勤務だった息子の陽一さんを失った東京都在住の住山一貞さんが、米国がまとめた報告書を日本語に翻訳し、さらに解説をつけた本が6月25日にクラウドファンドの目標金額150万円に対して492万円が集まり、「さらなる理解のために・解説版」としてまとめ、「全訳・911テロ調査委員会報告書」とあわせて刊行されることになった。出版社は東京のころから社(木瀬貴吉社長)。初版1000部を予定しているが、出版社では反響の大きさから部数を増やす事も検討している。

 住山さんは、刊行に向けてこう語る。

 私は1937(昭和12)年生まれで、定年まで金属メーカーに勤めましたが、英語とは縁のない生活をしてきました。その私が、膨大なボリュームの「911調査委員会報告書」を翻訳したいと思ったわけを記します。テロ事件から4年後、米議会が超党派でテロ事件の真相に迫った報告書「911調査委員会報告書」と遭遇しました。「遭遇」とは少し大袈裟に聞こえるかもしれませんが、まさにその通りでした。

 私たち夫婦はほとんど毎年、9月11日の追悼式典にニューヨークを訪ねていますが、息子の遺体はほんの小さな断片が発見されただけです。検視官の言葉では、残りはEvaporate (蒸発)したというのです。そうであれば、息子はニューヨークの街の空気の中に漂っている、行ってやらねば、との思いからでした。

 そうして何度か9月11日のニューヨークを訪ね、2004年の追悼式典の帰路、JFK空港の売店に「報告書」がテーブル一杯に平置きされて売られていたのです。全文が英語のレポートなので読み通すのは難しくとも、拾い読みくらいは出来るだろうと、そこから一冊を求めました。息子の遺体が発見されないなか、テロの真相を知りたいとの思いから567ページにおよぶ英文の「報告書」を読み始めました。全13章の報告書には、どうして米国がテロ計画を見抜けなかったのか、またテロリストのバックボーンなどが克明に書かれていることが分かりました。しかし、それは文字通り拾い読みとなり、本はその後スーツケースの中で眠っていました。また「報告書」では扱っていない、WTCビルの崩壊に関するアメリカの技術協会(NIST)の報告書の拾い読みにも挑戦しました。

 米国の超党派の議員たちのリーダーシップで911テロ調査委員会は組織され、まとめられた報告書は、もちろんアメリカの視点で書かれたものです。この事件では日本人も多くの犠牲者を出しており、アメリカ、イギリスに次ぐ数だと言われていました。

 しかし日本の世論は、これは米国での事件であり、巻き込まれた日本人は「不運」だったといった認識でした。けれども、日本がグローバルな活動を展開している以上、このような事件はまた起きる、それを防ぐためにも事実をまずは知ってもらいたいと思います。20年の月日を経たいまも、この報告書を多くの人に読んでもらいたいという思いは変わりません。(原文まま)