竹久夢二140周年記念

コンサート、フィラデルフィアで

大正浪漫の灯火再び

フィラデルフィア物語
ー息づく日米交流ー 上

Photo Yumeji Art Museum

 竹久夢二が日本人に西洋音楽への興味を広めた功績者であることをご存じでしょうか。大正時代の「セノオ楽譜」は、夢二が手がけた美しい表紙絵と斬新な日本語歌詞で人々を魅了し、彼らは楽譜を手に歌い、新たな音楽体験と感動し、西洋音楽を身近に感じる ようになった。約一世紀経った今年は夢二生誕140周年。その感動を蘇らせる試みがフィラデルフィアで開催され、大成功を収めた。アメリカ人にとって馴染みのある西洋歌曲をセノオ楽譜版の日本語訳詞で歌われるリサイタルの開催であった。これはアメリカ人にはかえって新たな音楽体験として響き、彼らを大正浪漫の時代へと誘ったのだった。

 このリサイタルの主役は広島県福山市ご出身のソプラノ、藤井泰子さん。岡山生まれの夢二に深い敬意を抱く彼女はセノオ楽譜の楽曲を積極的に紹介しており、夢二生誕140周 年をぜひ海外在住の日本人の皆さんとも一緒に祝いたいというのが願いであった。楽譜 そのものや夢二の資料、写真なども拝覧しながら大正浪漫の時代の息吹を感じていただけたら、、、そんな藤井さんのこの熱い想いを私はアメリカ人にも届けたいと思った。準備期間は短くとも助け合い精神溢れる「兄弟愛の街」はこれを実現できるはず、と私は強く信じていた。開催20日前の3月4日、私は藤井さんにこの提案をし、了承を得た。

Photo Japan America Soceity of Greater Philadelphia

さて、この街の助け合い精神は私の想像をはるかに超えるものだった。フィラデルフィア日米協会の専務理事チューニー・一美さんは、主催者を当協会にする決断を即座に下された。開催場所として市内で最も品格のあるRittenhouse Squareリサイタルホールを狙ったが、すでに予約がほぼ満室で難しい。しかしこの企画を知った当ホール常連のフィラデルフィア・オペラが代わりに場所を確約、続けてペン大(UPenn)が共催者に名乗り出て学術界の観客を確保して下さった。費用面ではフィラデルフィア美術館・元東アジア部長のフェリス・フィッシャー博士が支援して下さった。その結果、リサイタル当日、この由緒あるホールは瞬く間に満員となり、日米の観客は熱心に大正浪漫の再現を体験した。ピアニストはNYCで活躍中のErie Kangさん。本番前のリハーサル場所が見つからず困っていた出演者達がカーティス音楽院のレッスン室を使用できたのは、フィラデルフィア管弦楽団の首席バスーン奏者ダニエル・マツカワ氏の特別の計らいのおかげだ。そのレッスン室とはなんと、江藤俊哉氏の師匠でもあった「エフレム・ジンバリスト」の名がついている特別なルームだった!

 今回の成功はアメリカにおける日本文化と歴史への関心の高まり、藤井さんに代表される真の芸術家の誠意と情熱、そして両国の関係者・団体の助け合いによるところが大きい。この場を借りて、岡山の夢二郷土美術館をはじめお力添え下さった皆さまに心から感謝を申し上げたい。今後も未だ知られていない日本文化の魅力をアメリカに紹介し、日本のファンを増やしていきたい。

フィラデルフィア日米協会 副理事長 

穎川廉(Ren Egawa)

 30年以上にわたり日米欧のテック業界で最先端技術開発と新市場開拓に従事。パナソニック在籍中、新放送方式を開発、FCC(米国連邦通信委員会)で推進。世界規格に導き、本社役員賞を受賞。米SRIでは次世代GPU開発者、仏伊STではソフトウェア戦略チーフを歴任。現在は米Rexcel GroupのCEOとしてイノベーション推進事業を経営。フィラデルフィアの日米協会副理事長、アジア系アメリカ商工会議所顧問委員、オペラ振興諮問委員、フィラデルフィア管弦楽団アンバサダーとしてボランティア活動に従事。