フロリダに村を作った日系移民

「大和コロニー」

英語版に出版賞

  ジャーナリスト川井龍介氏=写真=の「大和コロニー」の英語版「Yamoto Colony :  The Pioneers Who Brought Japan to Florida  University Press of Florida」 がこのほどフロリダ・ヒストリカル・ソサエティー」から、年間の出版物の一つの部門の賞を受賞した。部門としては、フロリダの歴史に関して、民族的な観点や社会問題の観点からとらえた出版物に対して与えられる賞=The 2021 Harry T. and Harriette V. Moore Award for the best book on ethnic groups or social issues from the Florida Historical Society.

 この本は、著者が毎日新聞記者退社後、フロリダ州のローカル新聞社で研修していた時、たまたま見た道路標識「Yamato Road」に興味を持ったことがきっかけだった。そこから20世紀初めに南フロリダに「大和コロニー」なる日本人入植者による「村」があったことを知る。そしてそのメンバーの一人で、最後まで現地に止まった森上助次という人物が、コツコツと買い集めた広大な土地を地元に寄付し、それがもとで立派な日本庭園を含めた「森上ミュージアム」が現地に誕生したのだった。

 日系アメリカ人の移民史のなかでも詳細は明かされることがなかった異色のコロニーと男の歴史に川井さんは、ノンフィクションライターとして惹かれたという。労働移民とは違って資産家や指揮者たちが投資して作り上げようとした日本人村とはどのようなものだったのか。コロニーが消滅したのちも、日本に帰ることなく質素な暮らしの中で土地を残した男の生涯とはどのようなものだったのか。

 川井さんは、日系アメリカ人文学の金字塔ともいえる小説『ノー・ノー・ボーイ』(ジョン・オカダ著)に出会ったのがきっかけで日系人の歴史に興味を持ったこともあり、最初にフロリダを訪れてから20年も過ぎたころから本格的な取材始めた。かつてコロニーがあった現地をはじめ、コロニーを企画した酒井醸という京都府・宮津出身の若いインテリと、土地を寄付した森上助次という農民を中心に当時の関係者の子孫を探る。フロリダ州内はもとより、子孫や関係者のいるカリフォルニア、バージニア、テキサス、ニューヨーク、そしてコロニーの有力参加者の足跡を追って日本では宮津をはじめ、丹後半島や大分県の中津などを訪ね歩いた。そんな取材を足掛け10年ほど続けて、ようやく2015年に「大和コロニー〜フロリダに『日本』を残した男たち」(旬報社)を出版した。すると、この取材の中でお世話になった「森上ミュージアム」で館長をしていたジョン・グレガセン氏と教育事業のディレクターをしていた西岡令子さんが自ら翻訳を買ってでてくれた。

 その時点では、出版されるあてなどなかったが、大和コロニーについて詳しくかつ語学に堪能であるという2人の力によって完成した英語版をユニバーシティ・プレス・オブ・フロリダが評価し、出版された。

 川井さんは今回の受賞にあたり「日本で「大和コロニー」(旬報社)として2015年に出版された本が、昨年「Yamato Colony」という英語版で出版されたことは、本書が日米2つの国にまたがるノンフィクションであるだけに、著者として嬉しい限りでした。今回このような名誉ある賞をいただき、さらに多くの人にフロリダの日系歴史秘話を知ってもらえると期待します。改めて素晴らしい翻訳を手がけてくれた、フロリダ・森上ミュージアムのグレガセン元館長と元ディレクターの西岡令子氏に感謝します」とコメントしている。