舞台芸術はナマだからこそ

新ブロードウエー界隈
文・トシ・カプチーノ

 風薫る5月。長く辛ーいNYを越冬し、地元民と観光客が街中に繰り出して、いつもの年なら、1年のうちでブロードウエーが一番賑やかに、華麗に盛り上がるシーズン到来の筈だった! 嗚呼、しかし悲しきかな、ニューヨークの象徴であるブロードウエーは、現在、新型コロナウィルス感染防止措置のため、全公演が中止されている。6月7日に予定されていたアメリカ演劇界最高峰トニー賞授賞式も延期。さらに閉鎖期間が9月6日のレイバー・デーまで延期も発表されたことで、演劇関係者の間ではすでに年内再開は難しいのではないかと噂されている。  

 このような長期閉鎖はブロードウエー史上初で、例えば9・11の時でさえ、ブロードウエーの閉鎖は2日間だった。1シーズン丸々閉鎖というのがいかに異常事態なのがお分りいただけるだろうか。今シーズンもマイケル・ジャクソンのミュージカル「MJ the musical」や、故ロビン・ウィリアムズ主演の大ヒットコメディ映画「Mrs. Doubtfire」の舞台化など多くの話題作の開幕が予定されていただけに演劇ファンの落胆は計り知れない。また、現在、閉幕を余儀なくされているディズニーは、ロングランの「ライオン・キング」、「アラジン」、そして「アナと雪の女王」の3作品中、ロングラン中の2作品は上演を継続し、興行収入が一番振るわなかった「アナと雪の女王」を再開することなく閉幕することを決定。おそらく今後、続々と再開することなく閉幕していく作品が増えるのではないだろうか。  

 コロナ収束後のブロードウエーは、一体どうなるのだろう。ブロードウエーの41軒の劇場は、どこも3密有りき。どの劇場も入場の際、長い列に並ぶ。ソーシャル・ディスタンスを取ると相当な距離になるはずだ。席に着けば、隣の人と腕が触れ合うエコノミークラスの狭さ。もし、観客に一席づつ席を開けて座ったもんなら、収益が見込めないことは明白。入場制限が実施されれば、チケット代は高騰は避けられず、生のショーを楽しめるのは極一部の富裕層のみになりかねない。それ以外は観劇を諦めるか、オンライン観劇となるだろう。とはいえ、ブロードウエーの魅力はやはり生の舞台! ITだ、デジタルだ、ヴァーチャルだ、味噌だヘチマだつったって、劇場での感動に叶うはずもない。 何千年も綿々と続いてきた超アナログの舞台芸術はナマだからこそ興奮するしドキドキ感も倍増する。今、技術革新で色々な手段が選択できる時代だが、生ライブの良さは他の追随を許さないはず。この真実を知っている人がいる限り生のエンターテイメントは絶対に不滅だ。1日でも早く生のショーが観れるように、ワクチンの開発を急いで欲しいと切に願っている。Show Must Go Onなのです! 

トシ・カプチーノ:キャバレー・アーティスト/ 演劇評論家、ジャーナリスト130名で構成されるドラマ・デスク賞の数少ない日本人メンバー。週刊NY生活「新ブロードウエー界隈」連載中。TV:TBS「世界の日本人妻は見た!」日本テレビ『愛のお悩み解決!シアワセ結婚相談所』「スッキリ」「ZIP!」studio82℉所属タレント