「在外邦人の声を一括して国会へ届ける方法」

 今年は日本の参議院選挙があり、在外選挙も行われる。今回の選挙にあたっては、以前とは全く意味が違っていることを感じる。以前の在外選挙というのは、いわば在外の観点から日本の国政に関して選択を行なって母国に貢献するという性格のものであった。今回は違う。在外邦人の権利について、強く声を上げて行く時期が来ている。

 契機となったのは、新型コロナウイルスの感染拡大だ。今般のパンデミックが収束するまでは、日本の厚生労働省、法務省、外務省の措置に対して、とにかく協力する姿勢を持つ、これは全ての在外邦人の共通の態度であることは間違いない。だが、「その後」は違う。事態が落ち着いた時点で、一連の「水際措置」の制度と運用に関する徹底した検証を求めたい、この点においても在外邦人の姿勢に大きな違いはないであろう。

 例えば、日本様式の検査証明書が使いづらい問題、自主隔離に強制隔離、航空機内における濃厚接触の事後通知など、具体的な点に関しては、検証して現実的な改善を協議することは可能であろう。また、この間、多くのクレームの矢面に立って来られたであろう、在外公館の現場の皆さまのご苦労にはむしろ頭を下げるしかないと思っている。

 けれども、次の4つの問題は深刻さのレベルが違う。1つ目は、検査証明書の不備を理由に日本国籍者の入国が拒否された事例である。2つ目は、日本国籍者の配偶者の入国が不可能となったことで、外国人を配偶者に持つ日本人の人権が著しく毀損された事例。3つ目は、公職に就任等の理由で現地国籍を取得し、法務省等の勧告に従って正直に国籍離脱をした方の日本入国が不可能になった事例だ。これに加えて、4つ目としては、ウクライナ避難者を政府専用機で日本に収容する際に「日本国籍者を除外」したという驚愕すべき事件が発生した。

 つまり役所の判断が、狭い意味の法律・規則に縛られてしまった結果、国家を構成する要素である国民の権利が侵害されたのである。これは著しい国のかたち(=国体)の歪みであり、在外邦人として看過できない。また同時に、所轄の官庁と、その判断の背後にある国内世論には、在外邦人の置かれた状況に対して、絶望的なまでの無理解があるということも示している。

 これは緊急事態だ。伝染病、そして戦争という災禍において、母国が自分達を守ってくれない、そこに悪意はないが、しかし絶望的な無理解と制度の不備があるという現状は深刻だ。これに対しては、主権者がその権利を行使することで声を上げて行かねばならない。

 手段はある。今年7月の選挙で参議院の比例区を使うのだ。比例区というのは全国における単純集計によって個人と政党が得票する制度だが、在外からも投票できる。ここの当選ラインは全く単独の政党を結党して戦うと100万票必要になるが、政党内の名簿に乗せてもらえれば自民党で10数万票、野党だと数万票で当選可能だ。主要な政党の名簿に「在外代表」を送り、例えば、最初に頑張って世界中で30万の人が参院選の在外選挙に投票することとして、その票を自民の2人に10万、10万、野党の2人に5万、5万という割り振りができれば、在外邦人の代表を4名参議院に送れる。

 この4名が国会内で活動することで選挙制度改正が進み、仮に在外投票率が50%になれば、次の参院選では、自民3名、野党4名が送れて、参院での勢力は11名になる。これは一大勢力である。つまり、議員に一種のロビイストになっていただくのである。次のステップとしては、参院地方区に1区在外代表区をもらうのだ。今は、最低で福井選挙区で2議席ある。在外区の議席というのは十分視野に入ってくる。更に衆院についても、「直前の住民票のある選挙区」などという根拠薄弱な割り当てではなく、どこかのブロックに付けて衆院在外区を設置するのだ。

 勿論、権利には義務も伴う。これは皆さん様々なご意見があって簡単に一本化できないかもしれないが、将来的には日本国籍者には全世界合算課税で日本に納税(但し二重課税は回避)という制度を考える必要があるかもしれない。この夏の参院選、こうした在外邦人の「志」に応えてくれる候補者の登場を待ちたい。

(れいぜい・あきひこ、作家、ニュージャージー州プリンストン在住)