鮨が米国食文化の一部となったいま、スパイシーツナロールなどの米国ならではの創作鮨を越えた本格江戸前鮨を出す人気店がNYで目立つ。その一つが「シューコ」だ。
ユニオンスクエアから歩いて数分の同店の入口にはサインがない。瀟洒な趣のドアを開けると、洒落たワインバーのような現代感と和の伝統美が融合した独自の空間が広がる。オーナーシェフはニック・キムとジミー・ラウの両氏。それぞれ韓国系、中国系のバックグラウンドを持つが、「鮨は日本人が作るもの」という先入観を覆す実力派だ。両氏はフレンチほか多彩な料理を手がけた後、ミシュラン三つ星を持つNYの「マサ」「バー・マサ」でそれぞれ実績を積み上げ、2012年に同店を開いた。
メニューは鮨お任せ180ドル、鮨会席お任せ225ドルと、ハレの機会の価格設定だが、その価値は十分だ。会席は伝統和食を独自に伝える5品と伝統江戸前鮨。例えばタコのグリルにはレモンをきかせた栗のピューレを添え、ハッとさせるような新たな味わいを提供。またタルタル風マグロにはキャビアを盛ってブリオッシュのトーストを添え、魚の旨味を豊かなスタイルで楽しませる。鮨は、海塩の粒とレモンの皮をあしらい甘さを引き立てたホタテ、ガーリックオイルを絡めステーキのような濃厚さを醸す中落ち、備長炭で焼いたばかりの海苔を使ったホタルイカの軍艦など、印象的な各品が17貫続く。
そして〆にはデザートのアップルパイ。キム氏いわく「和と洋の世界を違和感なく合わせながら、自分たちなりに最高の美味しさを提供することを目指しています。LA育ちの自分にとってアップルパイには特別な思いがあり、メニューの一部にその思いを込めました」。鮨の後に続くアメリカン・デザートの美味しさに驚いたのは、筆者だけではあるまい。
鮨の伝統がこの街で健全に進化する様子を感じさせる、優れた店である。(ニューヨーク在住ジャーナリスト/片山晶子)
SHUKO 47 E.12th St., (bet.University Place & Broadway) Tel: 212-228-6088 17:30〜22:30 無休 www.shukonyc.com