
BŌKENを創る
米国で日本酒のオリジナル・ブランド「BŌKEN」を販売する会社Cedar Sake LLCを起業した創設者で最高責任者の中島大祐さん。昨年10月1日の「日本酒の日」にニューヨークで販売を開始した。
中島さんは千葉県出身、東京のインターナショナル・スクールに通った。大学は米国アイビー・リーグのブラウン大学で経済学を、コロンビア大学大学院では応用統計学で学位を取得。卒業後は米国の連邦準備銀行、投資銀行エバコアでエコノミストとして働くビジネスマンだったが、金融業界から日本酒という全く別の未知の世界に飛び込んだ。
銘柄の「BŌKEN」には2つの意味がある。一つはアドベンチャーと旅路。米国の消費者を日本酒へのアドベンチャーに連れて行きたいとの思い。もう一つは、オリジナル・ブランド造りに協力してくれている日本の酒蔵にとって米国のマーケットへの冒険。中島さんの日本酒への挑戦もまさに冒険だ。
投資銀行での仕事は心地よく、ポジションも守られていた。今後20年は楽に食べていける環境にいた。しかし、大学から25年以上米国で暮らし、米国のチャレンジ精神を生かして何かをしたいと思った。30代後半になった時に今後25年どういう人生を自分が生きたいかを考えたと、中島さんは振り返る。
中島さんが、日本酒ビジネス起業の決断をしたのはあることがきっかけだった。仕事で日本へ行き、欧米人のビジネス・パートナーと日本食を食べる機会も多かった。日本酒を美味しいと言ってクライアントが喜んでくれるのを見て、日本人として嬉しかった。コロナ禍中のある時、知り合いの酒蔵の経営者が「コロナ禍で経営が大変だ、中島さんみたいな人が蔵を買収してくれたらいいのだが」と相談された。買収は無理だが日本酒のために何かできないか、日本酒の輸入業者かディストリビューターか。そんなことを考えながらリサーチをするうちに会社を辞めて、日本酒のオリジナル・ブランドの会社を立ち上げる決心をした。中島さんは「自分ができるという自信があった。これは僕がやらないと誰かがやる。それほど日本酒の将来に何かを感じた」と話す。メキシコのメスカルやテキーラが米国で人気があるように、日本酒がもっと親しみやすくなれば米国人に受け入れられるはずだと。
2022年のコロナ禍期間中から日本全国の約40軒の酒蔵を訪ね歩き、オリジナル・ブランド造りの交渉をした。ビジネス・ビジョンを理解してもらい、提携に至るまでは約2年の月日を費やした。現在提携しているのは秋田県の飛良泉本舗と高知県の高木酒造の2社。若いオーナー杜氏で共通点はいずれも30代の若い経営者。新しいことに挑戦したいと引き受けてくれた。先代や先々代が造ってきた酒ではなく、新しい感性で自分が飲みたい酒、自分が理想とする酒造りを目指している経営者たちだ。
現在販売しているのは4銘柄。ドイツ・ワインのリースリングに近い味わいでケバブ料理など炭焼き料理に合うBŌKEN No. 77。ワインのシャルドネやソーヴィニヨン・ブランのような青りんごの香りと味わいでロブスター・ロールに合うBŌKEN RINGOは、2024年度パリのクラマスター純米酒部門プラチナ賞を受賞した。ラム肉やテキサスのBBQ に合うBŌKEN NANA。フライドチキンなどの揚げ物と合うにごり酒のBŌKEN NIGORI。
中島さんは「ワインはフランスのワインという時代から、カリフォルニアのナパ・バレーで造られたワインが認められるようになった。米国でSAKEを造る米国人もいる。SAKEのマーケット・シェアが生まれそれが文化になる。米国にはSAKEのプロも増えた。現在、日本酒は米国のアルコール売り上げ全体の0・2%だが、それを0・6%にできたら。日本の日本酒メーカーと米国のSAKEブルワリーが一緒になってマーケットを大きくできたら。自分が大きくしたい」と結んだ。
(石黒かおる、写真も)