最悪なダンスのお相手   マリーパットの場合

 モンティの華麗なステップに、マリーパットがひと目ぼれした。

 ふたりが出会ったきっかけは、社交ダンスだった。

 モンティと一緒に踊れたときには、胸が高鳴ったわ。でも、踊りたくもない相手に当たったら、最悪よ。 

 レッスンでは、男女がそれぞれ列を作って向き合い、正面の人とペアを組む。

 Rotate!(交替!)というインストラクターの深く低い声を合図に、ひとりずれて、相手が替わる。

 私だって最初のうちは、ステップも下手だし、おとなしく指示に従っていたわよ、とマリーパット。

 ある日のレッスンで、インストラクターの Rotate! のかけ声とともに、体臭のひどい男がマリーパットの前に現れた。

 ダンスルームはだだっ広いっていうのに、その男が入ってきた瞬間に臭うほどなのよ。ちょうど私の顔に、彼のわきの下が当たりそうになったとき、もう耐えきれなくなって、思わず言ってやったの。 

 I can’t dance with you any more. 

 あなたとは、もう踊れないわ。

 男が啞然としていると、マリーパットがとどめを刺す。

 You have to get some deodorant.

 デオドラントを買いなさいよ。 

 本当にそんなことを言ったの?

 私が驚いてマリーパットの顔を見ると、平然と答える。 

 私は彼のためを思って、アドバイスしてあげたのよ。そうしたらその男、僕はアレル ギーがあるから、デオドラントは使えないんだよ、って言うの。だったら、オーガニックの店に行って、自分に合うものを探しなさいよ、って言ってやったわ。 

 しばらくして、その男が再び、レッスンにやってきた。

 彼はマリーパットに歩み寄り、声をかけた。

 I took your advice. Thank you.

 君のアドバイスどおりにしたよ。ありがとう。  

 デオドラントのいい香りがした。 

 それから、数か月が過ぎた。

 その男の人がダンスルームに入ってきたとき、隣には女性が寄り添っていた。

 デオドラントを買ったら、もれなくガールフレンドがついてきた、ってわけよ。まあ、彼女を見つけるまでには、ちょっと時間はかかったみたいだけど。それもこれも、私のおかげよ。 

 He was grateful to me.

 彼、私に感謝してたわ。 

 私、こう見えても、善人なんだから。

 マリーパットは大口を開けて、豪快に笑う。

 マリーパットはやはり、ただ者ではなかった。 

 このエッセイは、「ニューヨークの魔法」シリーズ第8弾『ニューヨークの魔法のかかり方』に収録されています。

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